光で通信しよう
  育てたい資質や能力

装置の性能を上げる工夫をすることで,様々に試行錯誤しながら問題を解決する資質や能力を育てる。
  学習のポイントと配慮事項

反射光を利用せず,光に直接信号を取り込む方法は生徒にとって難しいと思われるので,場合によっては教師が教える。
  理論的な背景・注意事項

1 いろいろな通信手段
 われわれは相手に伝えたいことがある場合,直接相手に触れるか波動を利用している。
 話をしたりラジオを聞いたりするときは,空気中を伝わる音波を利用しているし,手紙や本を読んだり,テレビを見たりするときは光波を利用している。
 波動は拡がれば必ず減衰するので,遠く離れた相手に信号を送るために,指向性ということについて下表のように,様々な工夫がなされてきた。
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2 なぜ光なのか
 むかしNHKはAMラジオのステレオ放送をしていた時期があり,その方法は2台のラジオをNHK第一放送と第二放送にあわせて左右の音を聞く方法であった。
 これは,FM放送の普及により中止になった。
 FM放送は,テレビの音声多重放送も同じだが,同じ振動数(周波数)の電波で2種類の信号(左右の音)を交互に送っている。
 39KHzの周期で二つの信号を交互に送り,受信機で左右に振り分ける方式である。
 FMの電波の振動数は,80〜100MHzとAMより3桁高いことが多重放送を可能にしている。
 光の振動数はFMの電波よりさらに8桁高いので,2チャンネル以上の多重通信が可能であり,通信路(光ファイバー)を伝送時間で分割(TDMA)して信号を送る方法がとられている。
 ここで通信路を1.5Mbps(bit/秒)で信号を送れるとし,一つの信号を64Kbpsとすれば約24個の信号を一本の通信路で送ることができる。
 最近では一本の通信路を複数の振動数の光(色の違い)で利用する技術も開発中である。
 光を利用すれば一本の細い光ファイバーで多くの信号が同時に送れるのである。
 ところで,ここで言う光とは自然界に存在する光とは異なる特殊な光である。
 もちろん電球や蛍光灯の光でもない。
 位相のそろった光(コヒーレント光)すなわちレーザーのことである。
 物体が光を出すのは,原子内で電子が遷移する(軌道を変える〉ときであり,その一瞬だけ一連の短い光波を放出する。
 光の波は決して連続はしていない。原子は多数あり次から次に光を放出しているので連続しているように見えるが,各原子が光を出すタイミングはランダムで全く関連はないのである。
 レーザーとは原子が光を出すタイミングを人工的に操作して,位相がそろう(波の山がそろっている)ようにした光である。
 位相がそろっていると重ね合わせて強い光が得られるし,多くの信号を含めることができる。
 自然界に存在する光では金属を切断するような強い光も得られないし,明るい暗い以外の信号は送れないことになる。
  注・TDMAはTime Division Multiple Accessの略
    ・bpsはbit per secondの略。1.5Mbpsは毎秒1500,000個のデジタル信号。
    ・レーザー(LASER〉はLight Amplification by
Stimulated Emission of Radicationの略。誘導放出の放射による光の増幅という意味。
    ・光ファイバーを束ねたものが光ケーブルである。鹿児島〜沖縄間の光ケーブルは約700万回線である。
3 光ファイバーの原理
 光は空気中の挨などで散乱されてしまい,信号を遠くまで伝えることができない。
 また,直進するので受信相手が見える必要がある。
 これらの問題点を解決するために,光ファイバーが開発された。
 光ファイバーは全反射を利用し,曲がりくねった経路でもほとんど散乱なしに相手に届く。
 もちろん透明度は澄んだ空気より高い必要がある。
 アクリルパイプを利用して簡単にその原理を示すことができる。
 実際の光通信技術は,アナログ信号をデジタル信号に変換している。
 このとき,フーリエ級数の演算が使われているが,実は±∞の演算をしないと正しくは変換できない。
 音楽は,演算速度の関係で適当な範囲で演算している関係上,音が悪いと感じる人もいるわけである。
 ただし,整数を利用した文字などの送受信には威力を発揮することになる。
 光通信は最先端の高度な技術であり,その原理自体簡単なものではない。
 光通信と題をつけたが,この実験はモールス信号や手旗信号のレベルと大差ない。生徒が誤ったイメージをもたないように注意する必要がある。