永久磁石で釘をたくさん付ける方法を探そう 育てたい資質や能力 1 磁界を表すのに磁力線のモデルを考えると,磁界に関するいろいろな現象を説明できるという見方や考え方を育てる。 2 試行錯誤の結果から,きまりを推論するという資質や能力を育てる。 学習のポイントと配慮事項 1 複数の磁石を使い,引きつける釘の重さを測る過程で大まかなきまりに気付かせるために,何回か実験を行い平均をとって調べさせる。 2 いくらかきまりが見えてきたら,演繹的な方法で見通しを形成しながら調べさせる。 理論的な背景 1 磁石の原理 磁石とは,原子をつくる電子の運動によって起きる磁力によるものである。原子の周りを回る電子の運動によって磁界が生じている。つまり,原子1個1個が小さな磁石である。 強磁性体ではこの小さな磁石の向きのそろった小さな区画(磁区)が存在し,この区画により残留磁気が生じる。 磁界の中で反対向きに磁化されるものを反磁性体と呼ぶ。強磁性体でなくても,強い磁界に入れるとほとんどの物質が磁性を帯びる。 2 磁力線について (1) 磁力線には次のような性質がある。 @ 磁力線は交わらず,お互いに反発する。 A N極からでた磁力線はS極に吸い込まれる。 B 磁力線は縮もうとする。 C 磁界が強いと磁力線が込み合っている。 異極どうしは@の性質により反発し合う。同極どうしはABの性質により引き合う。 (2) 二つの棒磁石の異極どうしくっつけた場合 ![]() この場合は,Aの性質により,外部に出てくる磁力線の本数は減少する。 (3) 二つの棒磁石の同極どうしくっつけた場合 ![]() それぞれの磁石は反撥しあい,束ねるのが大変であるが,@により磁力線はお互いに斥け合うように出るので,外部に対する磁力線の量が増えることになる。 単純に考えると,磁力線は一本の場合の2倍になる。 実際にやってみるとそれに近いデータが得られる。 (4) その他複数の磁石を用いた場合 同じ強さの磁極からは,N極であれば同じ本数の磁力線が出る。 またS極ならば同じ本数の磁力線が吸い込まれる。 下図では一本分の磁石とほぼ同じことになる。 ![]() 3 磁界の観察 (1) 流動パラフィン中のスチールウール 磁力線は磁界のようすを視覚的に表すために考えられた仮想的な線であるが,磁性体は磁界中で磁化され,磁界に沿ってならぶ。 あたかも実際に線があるように見えるため,磁界のようすを観察するには便利である。 流動パラフィンは比重が大きく,スチールウールが沈むのに時間がかかるので立体的な磁界の観察に適している。 サラダオイルは比重が流動パラフィンより軽くスチールウールが沈むのが早いので,できるだけ流動パラフィンの使用が望ましい。 流動パラフィンは非常に粘性が高く,手につけたりこぼしたりすると後始末が大変である。 少量ならば布や紙などにしみこませ,一般ゴミとして廃棄する。多量に廃棄するときは有機・可燃性廃液(廃油)として保管し,専門業者に委託する。 皮膚や手に付けないように注意し,目や皮膚についたら多量の水で洗い流す。口に入ったら,口をよくすすぐ。 可燃性であるので火災に注意する。無味,無臭で熱・光・酸に対して安定である。水,アルコールに不溶。エーテル,クロロホルム,石油,ベンゼンなどに溶ける。 4 磁界の強さ 磁界の強さは磁極に働く力の大きさで表す。 従って,向きが異なる磁界を合成するときには力と同じようにベクトルの和(平行四辺形の法則)である。 (1) 電流のつくる磁界 ア 直線電流 直線電流からr離れた点の磁界の強さHは,電流をIとして ![]() で表される。(単位:A/m又はN/wb) (2) 磁界の強さの定義 磁界の強さは次の二通りの定義がある。 @ 単位磁極の受ける力で表す。 1wbあたりの受ける力で表す。m(wb)の磁極がF(N)の力を受ければ,その点の磁界の強さHは ![]() となる。(単位:N/wb) A 単位電流が1(m)あたり受ける力で表す。 長さL(m),I(A)の電流がF(N)の力を受ければ,その点の磁束密度Bは ![]() となる。(単位:N/Am) BとHは比例し B=μH(μは透磁率) となる。 (3) 電磁石 外部から磁界をかけたとき,鉄などの強磁性体が磁石に吸い寄せられるのは,磁界中で磁化されるからである。 外部磁界を取り除くとほとんど元の状態に戻る。(いくらかは磁気が残る。これを残留磁気という。)鉄芯を入れた電磁石はコイルの作る磁界と磁化された鉄の磁界との和となる。 電流の作る磁界の大きさは @ 円電流の場合,中心の磁界が最も強く,半径をr(m),電流をI(A)とすれば G\ となる。(単位:A/m) A ソレノイドコイル(長く巻いたコイル)の場合,内部では磁界の強さは一様で H=nI となる。(単位:A/m)nは単位長さあたりの巻き数である。 したがって ・ 巻き数を増やしても磁界は強くならない。単位長さあたりの巻き数を増やす必要がある。 ・ コイルの断面を大きくすると単位面積あたりの磁界は変わらないが,範囲が広がるのでより多くのクリップを持ち上げることができる。 ・ 断面を大きくする場合,円形にならないように注意する。長さも必要である。 ・ コイルの作る磁界は変わらなくても,内部に鉄を入れると鉄が磁化されその分加算されるので全体としての磁界は強くなる。 【参考資料】 永久磁石で釘をたくさん付ける方法を探そう【教育センターでの実験結果】 16本のアルニコ磁石の磁力を調べる。 ![]() 2 磁石をくっつくようにして置いて調べる。 (磁石は,1と5を使用) ![]() 3 磁石を斥け合うように置いて調べる。 (磁石は,1と5を使用) ![]() 4 三つの磁石で磁石を引き合うように置いて調べる。 (磁石は,1と5,6を使用) ![]() 5 三つの磁石を斥け合うように置いて調べる。 (磁石は,1と5,6を使用) ![]() ![]() 6 二つの磁石を縦につないで調べる。 (磁石は,1と5を使用) ![]() 7 いろいろな物を通して磁力がどうなるか調べる。 ![]() |