携帯用カイロがあたたかくなるのはなぜ
  育てたい資質や能力

1 化学反応には熱の出入りが伴うという見方や考え方を育てることができる。
2 いくつかの条件がからまっている実験の場合,その条件を一つずつはずして実験を行うことで関係ある要因を見いだすことができるという手法を身に付ける。
  学習のポイントと配慮事項

 複雑に条件が絡み合っているので,条件を一つずつ抜いて原因を探す方法で発熱の要因を調べさせる。
  理論的な背景

1 化学反応とは
 スチールウールなどの鉄が燃えるのと鉄がさびるのとは同じ酸化反応である。ただし,鉄が燃えるときは,まずマッチで火を付けるなどして熱を加えてやらなければならない。
 熱を加えることによって,鉄原子や酸素分子の運動が活発になり,原子の組みかえが起こる。この原子の組みかえが化学反応である。
 火を付けて熱を加えるのは,反応が起こるきっかけとなるエネルギーを与えることであり,このとき原子の組みかえが起こるために十分な濃度の酸素を必要とする。
 このように,化学反応を起こさせるのに必要な最小のエネルギーのことを活性化エネルギーという。
 化学反応にはすべて熱の発生や熱の吸収が伴う。熱が発生する場合を発熱反応,熱を吸収する場合を吸熱反応といい,その時の発熱や吸熱を反応熱と呼ぶ。
2 鉄と酸素の反応
 鉄を空気中に放置しておくと,次第にさびる。これは,酸化という化学反応によるもので,鉄が空気中の酸素と結合して酸化鉄に変化するためである。
 鉄が酸素と結合して酸化鉄へと変化するときには,余分なエネルギーを反応熱として放出している。
   3Fe + 2O2 → Fe3O4 + Q〔KJ〕
3 反応を速める条件
 鉄がさびるときの反応熱を感じるためには酸化反応を速める必要がある。そこで,携帯用カイロでは,酸素にふれる面積を大きくするために鉄を細かくしたり,触媒として食塩を加えたり,酸素濃度を高めるために活性炭などを用いたりしている。
4 外袋,内袋
 携帯用カイロの外袋は空気を通さないプラスチック製の袋を用いている。
 内袋は不織布からできている。通気性のない外袋の封を切ると内袋の中の鉄粉が酸素に触れてさびる。このとき,不織布は適量の酸素を通すので,携帯用カイロは適度な温度(40℃前後)で長時間反応を持続させることができる。
5 鉄粉,水
 鉄表面の鉄原子は空気中で水と接すると,電子を失って鉄(U)イオンFe2+となり水に溶け出す。
 失われた電子は水および酸素と反応し,水酸化物イオンOH-となる。生じた鉄(U)イオンと水酸化物イオンが反応し水に溶けない水酸化鉄(U)Fe(OH)2になる。Fe(OH)2は水と酸素と反応してFe(OH)3になる。
 さびはFe(OH)3がさらに変化し,Fe2O3・nH2Oになったものである。
 鉄の酸化反応はゆっくりと進むので,ふつうの状態ではさびた鉄から熱を感じることはできない。そこで,携帯用カイロでは,酸素にふれる面積を大きくするために鉄を細かくした鉄粉を用いている。
6 木炭,活性炭
 木炭,活性炭は多孔質のため空気中の酸素を吸収し酸素濃度を高めることにより,鉄粉が酸素に触れてさびやすくしている。
7 バーミキュライト
 鉄がさびるときの要因の一つである水分を保つ働きがある。
8 食塩
 塩分には潮解性(固体が空気中の水分を吸って溶ける現象)があるので,さびに必要な水分を保つことができる。さらに,含まれる塩化物イオンCl-がさびの進行を速める触媒の働きをする。