つる植物をさがそう
  育てたい資質や能力

 植物の世界には様々な生存競争があり,特に光を求めての生存競争は苛酷で,競争に勝つために少しでも高い位置を保とうとしているというという見方や考え方を育てる。
  学習のポイントと配慮事項

1 植物が他の植物に絡んだり,よじ登ったりして高くなり,より強い光を得て巧みに生活していることを理解させる。
2 つる植物の中にも絡み方,よじ登り方に多様な形態をもつことに気付かせる。
3 つる植物の中にはノイバラやカカツガユ,ジャケツイバラのようにトゲによって絡むものもあり,けがをすることもあるので注意させる。
  理論的な背景

1 つる植物について
・ 植物は光を少しでも多く浴びるために,高くなろうとして,エネルギーをたくさん使って幹を太くして,自身を支えるよう大きな努力をしている。
  つる植物は他の物や構造物に寄りかかったり,よじ登ったりして絡まれる植物より高くなってより多くの光を得るため,茎や幹にかける負担を小さくして自分自身の成長に回すことができる。つる植物は他の植物等を利用する賢い生物とみることができる。
・ つる植物は他の植物に絡んで伸びるため,体を支えるための幹や茎の部分は他の植物に比較して少なくてすむ。
  したがって,光合成した生産物の多くを成長のために使うことができる。
  そのため,他の植物と比較して成長が大幅に速いものが多い。特に多年生植物のクズや1年生植物のカナムグラなどは成長量が大きく,1年間で10m以上成長するものもある。
2 つる植物はどこに生えるか→マント群落とソデ群落
  つる植物をよく見かけるところは垣根や林のふち,河川沿いの林のような裸地と森林の間などである。つる植物だけ生えているところはなく,キブシやウツギなどの低木をともなっている。このような植物集団(植物群落)を,人間の体をすっぽり包むマントによく似ていることから,マント群落と呼ぶ。
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 また,マント群落に接して,裸地との間につる植物を中心とした草本と低木群落からなるソデ群落もある。
 これらの群落は,森林が破壊されたとき,まっさきに裸地や森林の周辺をおおい,森林内に強い風や光が人ってくることをはばみ,大雨などによって栄養分豊かな表面の土壌が流されるのを防いでくれる。
 森林が破壊されると一般には強い風が入り込み,木を倒し,強すぎる光は中の植物を枯死させたり,強い風により林内が乾燥し,森をさらに破壊する。
 ところが成長の速いつる植物を中心としたマント群落やソデ群落があると風や,光を遮って林内の環境を一定のものに保ち地,森林が守られるというわけである。
 ちょうど人間がケガをしたときにできるかさぶたと同じ役割がある。かさぶたは見た目にはみにくいが,いち早く傷口をおおい,外の空気や水などが傷口にふれるのを防ぎ,細菌の侵入などを阻止して人のからだを守る。
 マント群落やソデ群落は,まさに森林のかさぶたともいえるもので,その中心的役割を担っているのがつる植物なのである。
3 アメリカの帰化植物と日本からのつる植物
 本来その土地には生えていなかった植物が,人為的に持ち込まれて,その土地に根づいた種のことを帰化植物という。
 明治以降日本では宅地や工場用地などを造成するために,森林を破壊してつくった土地や埋立て地が増えている。
 その土地には日本の在来植物でなく,いろいろな国を原産とした帰化植物の雑草群落がおおっている。
 ヒメムカシヨモギ,ブタクサ,ヒメジョオン,ハルジョオン,セイタカアワダチソウなど,都市で見かける雑草の多くは帰化植物である。
 この日本を侵略した帰化植物が,やがて日本全土をすみずみまで征服してしまうのかというと,そうではない。
 せいぜい裸地や草原だったところに侵入するのがやっとだろう。
 森林の中はビクともしない。というのは,日本の森林を構成している種は多種多様なので,この中に入ってくるすき間はないと考えられるからである。
 ところで,日本だけがこの外来植物の侵略を受けているのだろうか。
 実はアメリカも帰化植物に悩まされている。アメリカでは帰化植物のことを「エイリアン」と呼んでいる。“侵入者"という意味である。
 アメリカで猛威をふるっている「エイリアン」のなかには日本生まれの植物,クズも人っている。クズは日本でも道路沿いのマント群落の構成種であるがアメリカの東海岸地方では道路沿いに立ち,木や電柱に巻きつき,ほとほと手を焼いている。
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 もともとクズはその成長が速いこと,地表面をおおい勢力が強いこと,マメ科植物で牧草としてもよいことから,道路や畑の畔の土壌流失防止用として日本や韓国から移入されたものである。
 最初は期待どおりの役を果たしたと喜ばれ,各地で植えられたが,いつのまにか道路沿いで大繁茂し,ついにはマツやカシ類の植林の成長を阻害するようになり,いまでは毎年定期的に刈りとるようになってしまった。
 アメリカでの日本原産の「エイリアン」はクズの他にカニクサやスイカズラなどが知られている。いずれもマント群落を構成するつる植物であることは興味深いことである。
4 フジとヤマフジの違い
 (1) ヤマフジ
 【分布】
  本州の兵庫以西,四国,九州に,県内では佐多以北の各地に分布する。川内川では上流部や支流の渓谷や中流部および下流部に普通に見られる。
 【形態】
  他の樹木に絡んで伸びるつる性の落葉高木。つるは先端から見ると反時計回りに伸びていく。
  樹皮は灰白色,葉は奇数羽状複葉で互生し,長さは10〜30cm,小葉は9〜13枚で長さ3〜11cm。
  小葉は先がとがり,卵形〜楕円形で鋸歯はない。葉の両面に毛を密生する。
  花は房状の花序に紫色の両性花を付ける。
  花序は10〜20cmの長さで4〜5月に,葉より遅れて開き,房状の花が同時に開花する。
  フジに比較して花序は短いが,花は大型で花弁(翼弁)の長さは19〜23mm。
  成熟した種子の入ったサヤは15〜21cmあり,表面に短い毛を密生する。
  4月に葉が開き,やや遅れて4月下旬から5月にかけて花が咲く。
  受粉すると種子はさやの中で成長し,成熟すると自分の力ではじけて種子を遠くへ飛ばす。
 【生育環境】
  上流の谷間地を埋めるように勢力を広げる。陽性で,伐採跡地や,地滑りが起こった場所などに生育する。
 【その他】
  山野に自生する藤という意。県内ではフジと区別されていないようである。
  地方名で
サガレフジ(佐多町),フジ(加世田市,宮之城町,大口市,加世田市),フッノキ(東郷町)と呼ばれコミスジ,ルリシジミ,ウラギンシジミの食草になっている。
 (2) フジ
  つる性の樹木。ヤマフジとは逆に,つるは先端から見ると時計回りに伸びていく。
  葉の大きさや形などはヤマフジによく似ている。
  花は房状の花序で花弁は紫色だが,花序の長さは20〜90cmと長く,花序の付け根から上の方に徐々に咲き,花弁の長さも12〜19mmと短い。
  鹿児島県内では分布が限られている。
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