冬の植物のようすをしらべよう
  育てたい資質や能力

1 植物が寒さの厳しい冬に工夫して生きている姿を知ることを通して生物が環境に適応するため合理的な形態をとっているという見方や考え方を育てる。
2 植物の周年の変化への感性を高め,自然観察の仕方や方法を身につける。
  学習のポイントと配慮事項

1 植物は冬場に光合成がほとんどできず,凍結によって枯れる危険性があることを理解させた上で,凍らない工夫や,春の準備をして冬を過ごす植物の姿に気付かせる。
2 植物の寒さへの適応形態を落葉や冬芽によってグループ化させる。
3 観察に際して集中して枝を折ったり,植裁を踏んだりしないよう注意させる。
  理論的な背景

1 落葉と常緑
 植物は一般に5℃より下がると光合成速度は著しく低下する。
 樹木は厳冬期に芽の細胞内凍結を避けるため,芽の細胞内に糖分や有機酸,タンパク等を蓄え細胞内の溶液の濃度を高めたり,芽の外側を芽鱗や毛で厚く覆ったりして保護している。
 冬季,光合成できない低い温度でいつまでも葉をつけておくことは,乾燥,凍結,積雪による葉への圧力等生命への危機が大きい。そこでこの危険を避け,かつ,今までの生命活動で貯まった老廃物を排出するため葉を全部落とすのが落葉樹である。
 この危険があっても,冬季でもまだ光合成をできる温度,日照条件の時に生産活動を行うのが常緑樹である。
 樹木の幹で葉がついていた痕が葉痕である。常緑樹落葉樹問わず葉痕が残る。葉痕にはかつて葉の維管束が接続していた痕が凹凸として残っている。この形は植物によって異なり,種の同定にも活用される。調べると独特の形態で面白い。
 一方この危険があっても,冬季でもまだ光合成をできる温度,日照条件の時に生産活動を行うのが常緑樹であり,多年生草本植物を常緑性草本と呼ぶ。
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2 生活形
 植物は冬の乾燥と細胞の凍結から身を守るために,細胞分裂を盛んに実施している場所を冬芽(休眠芽,抵抗芽ともいう)という形で保護している。
 冬芽のできる位置によって植物を分類することが可能である。(ラウンケルの生活形)
 ア 地上植物 冬芽の位置が地上30cm以上とところに形成される植物
  例 ツバキ,サザンカ,ヤマザクラ,ケヤキなどの樹木
 イ 地表植物 冬芽の位置が地上30cm未満の位置に形成される植物
  例 ツルコウジ,ヤブコウジ,マンリョウなど
 ウ 半地中植物 冬芽の位置が地表面にある植物
  例 ススキ,シバ,オオバコ,ギョウギシバなど
 エ 地中植物 冬芽の位置が地中にある植物
  例 ヤマノイモ,ジャガイモ,サトイモなど
 オ 水中植物 冬芽が水中にある植物
  例 ハス,ガマなど
 カ 1年生植物 栄養体は枯れ,種子で冬季を過ごす植物
  例 ヤハズソウ,サルビア,メヒシバ,オヒシバ,ムラサキカッコアザミなど
 なお,この分類は地域によって若干の違いがある。
  例 サルビア,ムラサキカッコアザミなどは大島地区では地表植物に当たる。
3 ラウンケルの生活形の分類では1年生植物にあたる草本植物は冬の寒さか,夏の他植物との競争(元々は夏の乾燥)に適応するため,1年の周期で栄養体と,種子の時期を繰り返す。冬の時期を種子で過ごすのは1年草,夏を種子で過ごすのを越年草と呼ばれる。
 @ 植物体を枯れさせ種子で冬越しするもの(1年生草本植物)
  オヒシバ,メヒシバ,チヂミザサ,トキンソウ,コニシキソウ,コミカンソウ,スベリヒユ,イヌホオズキ
 A 秋に発芽し植物体の根は発達しているが,葉は小さく地表面をはうもの(2年生植物,越年生植物)
  ハコベ,ナズナ,マメグンバイナズナ,カズノコグサ,カラスノエンドウ,オオマツヨイグサ,タガラシなど春季に花を咲かせる草本類
4 ロゼット葉
 植物は一般に5℃より下がると光合成速度は著しく低下する。越年生植物の多くや一部の多年生植物は葉を地表面にはうように広げる。葉の形がバラの花のように輻輳して見えるのでロゼット葉と呼ばれる。
 光が当たっている時地表面が熱せられるので,ロゼット葉は地表面から熱をもらい葉の温度を上げることができる。このため,大気より温度が高くなり,光合成速度を上昇させて,冬場でも成長を続けることができる。