土の中にはどんな生き物がいるか調べてみよう。
  育てたい資質や能力

 土壌中の環境の特徴とそこに生活する生物の多様性や共通性とを関連付けて考察するという見方や考え方を育てる。
  学習のポイントと配慮事項

1 地表や土壌中の環境と地上の環境の違いを,光,湿度,温度等の視点から気付かせる。
2 土壌動物を抽出するため,土壌動物の行動に着目させ,簡易ツルグレン装置を自作し,活用することによって,生物の生存する環境の共通性と生物の種の多様性に気付かせる。
3 ムカデなどの毒をもち刺す動物がいること,ツツガムシが病気を媒介することなども知らせておく。
  理論的な背景

1 土壌環境の特徴
(1) 半固体性
 動物が土の中を普通の方法で移動しようと思っても不可能で,強い抵抗を受ける。土の中は固体・気体・液体のモザイクであり,動物が受ける抵抗は空気中や水中におけるように連続的でなく不連続的であるのも特徴である。また,土壌は表層ほど気体の割合が多く,固体部分も不安定であるが,下層に向うにしたがって,固体の割合が増し,硬く,つまる。
(2) 暗黒
 土壌の固体部分は,それがかなり少ない土壌表層においても,動物の視界をさえぎり,上方からの太陽光線を透過させないため暗い。
(3) 多湿
 水分は生命維持の条件の一つであるが,これがかなり安定した状態で存在するということは,生物の生活にとって高い安全性が確保されていることになる。
 そのために,乾燥に耐えるだけの仕組みをもたない多くの動物も,土壌の中でなら暮すことができる。
 土壌は時にかなり乾燥することもあるが,少し下層へ移動すれば,そこには十分な水分が存在し,動物を危険から守ってくれる。
(4) 温度変化の少なさ
 土壌は固体・液体・気体の混ざり合ったものであるから,太陽熱の急激な伝導をやわらげ,また急激な冷却をも防げる。
 そのために,地表部分は別にしても,土壌の中は地上界にくらべれば,年間や昼夜の温度変化がずっと少ない。
 このため,土壌中は生物にとって多様な環境になり,多種,多様な生物が住める要因になっている。
2 土壌生物の分類
 土壌動物は種類が多く種の同定は専門家でないとなかなか難しいが,大きなグループの同定は検索表を使ってできる。下の検索図を使って大まかな分類をするとよい。
「土壌動物の検索円盤図」
(図をクリックすればPDF形式の見やすい図が開き,印刷して使用できます。)
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3 土壌動物による環境診断
 動物は環境が豊かであれば,その中に多数の種が生息できる。
 土壌環境が豊かになると生物の遺体を食べる土壌動物だけでなく,それを食べる肉食の土壌動物が多くなる。
 土壌動物を点数化し,その合計点で自然の豊かさを測定することができる。
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大型土壌動物のグループ分け(青木 1989)
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 この点数化されたものを利用して,下の表のように3か所調査し,出現した生物の種類の点数を合計すると,その地点の総合点が計算できる。
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 この総合点数をそれぞれの環境で比較するとさらに
下表のようになり,環境によって総合点が変化することが分かる。植物相が豊かになれば土壌生物相も豊かになり,自然の豊かさの評価として活用できる。
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4 危険生物への対応
  土壌動物には危険生物は少ないが,ムカデにかまれたり,サソリモドキ(枕崎市以南)に毒液をかけられたりすることもある。長袖をして,軍手をして採集するとかまれることもない。場所によってはヒルがいるところもあり,吸血されかゆくなることもある。あらかじめ,消炎剤を含んだ医療用スプレーをしておくとかまれることは少ない。ツツガムシに刺されても気付かないことが多く,まれに高熱を発生することがある。このときは医療機関に,野外で活動した旨のことを伝えておくと参考にしてくれる。


参考文献「自然を調べる」原田洋 監修 木馬書館