教師用資料[鹿児島県の火山の分布を調べよう]
  育てたい資質や能力

1 鹿児島県内の火山活動は地球規模の大地の変動の一部であるという見方や考え方を育てる。
2 火山の分布と海底地形の関係は,プレートの運動と関連付けて考えることが有効であるという見方や考え方を育てる。
  学習のポイントと配慮事項

1 理科年表は略号が多いので,言葉に置きかえさせる。用語の意味も調べさせる。
2 火山の形などは見に行ったり,写真集などで調べたりして特徴をとらえさせる。
  理論的な背景

 火山は地球内部のエネルギーが熱と物質(マグマ)として放出されている場であり,噴火と共に様々な地殻変動を伴っている。日本には100個以上の火山が知られ,鹿児島県内だけでも10個をこえる火山がある。しかし世界的に有名な桜島を除くと,その存在や活動はほとんど知られていない。
 国立天文台が編さんしている「理科年表」には,日本や世界の火山の噴火履歴が簡略にまとめられており,火山の分布や噴火史をつかむには適当な資料である。火山活動の時間スケールは人間の時間スケールよりはるかに長いので,火山を身近に知るためには資料を読んで噴火の歴史と人間とのかかわりを調べることが不可欠である。
1 火山の分布
 火山は地球上に約800あるが,その多くは特定の地域に集中している。火山の分布は次の三つに分類することができる。
A 島弧−海溝系の火山 プレートの沈み込みにともなってできる。安山岩質のマグマを中心として多様な性質の火山が見られる。
 例)環太平洋火山帯
B 中央海嶺の火山 プレートの生成によってできる。玄武岩質マグマの火山活動がさかんである。
 例)アイスランド,大西洋中央海嶺,東アフリカ大地溝帯
C ホットスポットの火山 マントル内部に特別に高温の部分(ホットスポット)があり,プレートを突き破って火山島や海山をつくる。玄武岩質の火山活動がさかんである。
 例)ハワイ諸島
(1) 日本の火山分布
 日本列島の火山はプレートが沈み込む境界に沿って,海溝から100〜300km以上離れて分布している。火山の分布の海溝側の限界線を火山前線(火山フロント)という。火山前線より内側(大陸側)に安山岩質の火山を中心とした多様な火山が多く見られる。
 日本列島の火山の分布は,北海道から東北日本,伊豆・小笠原列島へと続く東日本火山帯と,西日本の日本海側から九州中央部,南西諸島へと続く西日本火山帯とに分けられる。東日本火山帯は太平洋プレートの沈み込みと,また西日本火山帯はフィリピン海プレートの沈み込みと密接な関係にある。
(2) 鹿児島の火山分布
 鹿児島の活火山を地図上にプロットするときれいに一直線にならび火山フロントが明らかになる(下図)。火山フロントの西側(薩摩半島側)には古い火山(例えば藺牟田池,住吉池)が見られるが,東側(大隅半島側)には火山地形が見られない。
 南九州および南西諸島の東側には琉球海溝(南海トラフ)が平行に走っている。
 南九州のカルデラは四つ(北から加久藤カルデラ,姶良カルデラ,阿多カルデラ,鬼界カルデラ)ある。池田湖カルデラや住吉池など過去の火口は数多くある。
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(3) 活火山の定義
 日本では「過去およそ2000 年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」という定義で86個の火山を活火山としてきた。しかし,長期にわたって活動を休止したあと活動を再開した事例も知られており,国際的には過去1万年間の噴火履歴で活火山を定義するのが適当であるとの認識されている。そのため,2003年から21個の火山を追加し,108個の火山を活火山とし,活動のレベルをA〜Cの3段階に分けた。鹿児島県内では桜島と諏訪之瀬島がAランクの火山である。
 なお,”休火山””死火山”という用語は人間の時間スケールで定義したものであり,現在では使用していない。
 (4) 有史以前の火山活動
 年表に現れる歴史以前の火山活動は,堆積した火山灰や溶岩から推定する。
 例えば桜島は約2万2000年前に古期北岳が誕生が誕生し,南岳は約4000年前から活動を始めたことが火山灰からわかっている。また開聞岳は約4200年前から噴火を開始している。これらのことから火山の歴史は数万年程度と意外に短いことがわかっている。
 各地の地層や遺跡などで観察される火山灰は,それぞれの火山活動の前後関係を決めることに役立つ鍵層となる。
2 火山の噴火と溶岩の性質
 火山の噴火の特徴も溶岩の性質(特に粘性)に大きく影響される。一般に粘性の低い溶岩からなる火山では溶岩がうすく広がり,粘性の高い溶岩からなる火山では爆発的な噴火をする。
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3 マグマの発生と分化
 マグマはマントル上部のカンラン岩が部分溶融することによって発生する。このときできるマグマ(本源マグマ)は玄武岩質マグマである。
 マグマがマグマだまりの中でゆっくり冷えていくにつれて,次々といろいろな鉱物が結晶してマグマだまりの下に沈んでいく。すると残ったマグマの化学組成も変化する。このようにして本源マグマからいろいろな化学組成のマグマができる作用を結晶分化作用という。
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 玄武岩質マグマが結晶分化した最後に流紋岩質マグマができるが,これは大変少量である。
 しかし大陸地域に大量に分布する花こう岩を説明することができないため,大陸の地下深部では玄武岩質マグマだけでなく,花こう岩質マグマもつくられていると考えられる。
4 火砕流について
 火砕流は高温の火山砕屑物が粉体流となって流れ下る現象で,この堆積物は谷を埋めて台地(火砕流台地)を形成する。火砕流は1990年の雲仙普賢岳やピナツボ火山で有名になったが,桜島でも大正噴火の際に発生している。鹿児島県内にはこれらの数千倍規模の火砕流があったことが分かっている。
(1) シラス台地
 入戸火砕流堆積物の台地。流れ出した火砕流は100mをこえる厚さで,川や谷を埋めるように県本土全体に厚く堆積している。国分上野原や城山付近では溶結しているが,鹿屋笠野原や南薩では非溶結の「シラス」となっている。姶良カルデラ(現在の鹿児島湾奥部)が約約2万5千年前に大噴火し,大量の火砕流が南九州をおおった。このとき南九州の生物は絶滅したと考えられる。桜島はその後できた火山である。
(2) 阿多火砕流
 大隅半島南部や指宿付近に溶結して堆積している。柱状節理が発達して垂直な崖になっていることが多い。蒲生町付近では「蒲生石」として利用されている。
 (3) 加久藤火砕流
 鹿児島県北部に広く溶結して堆積している。大口市曽木の滝や鹿児島市の梅ヶ渕観音などはこの火砕流堆積物のものである。
5 カルデラについて
 直径2km以上の巨大なくぼ地をカルデラと呼んでいる。カルデラは火山の大爆発によって中央部が陥没したもので,九州内では阿蘇カルデラ(直径約20km)がもっとも有名である。
 鹿児島県内のカルデラは海中に没しているものが多いが,いずれも大規模火砕流を噴出した巨大な火山である。
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※ もっと調べたいときは
  日本火山学会「火山学者に聞いてみよう」
    http://hakone.eri.u-tokyo.ac.jp/kazan/
  日本の第四紀火山
    http://www.aist.go.jp/RIODB/strata/VOL_JP/