気象観測の道具を自作しよう
  育てたい資質や能力

1 様々な測定器が物理現象を利用してつくられているという見方や考え方を育てる。
2 正確に測定するには様々な補正を行うことを通じて,自然界では多くの因子が関係して複雑な現象が起こっていることを理解できる能力を育てる。
  学習のポイントと配慮事項

1 市販の乾湿計や水銀気圧計など測定器を提示して原理を考えることができるようにする。
2 器差や温度による補正が必要なことから,条件を変えて測定を繰りかえすことができるようにする。
  理論的な背景

 温度計や湿度計・気圧計は気体や液体の物理的性質をうまく利用して作られている。これらの観測装置の原理から,大気や水蒸気の性質を理解することができるようにする。
1 湿度
 空気中に含まれる水蒸気量の度合いを表すのが湿度であるが,一般には相対湿度(%)のことをいう。
 相対湿度はある一定の容量の空気が含んでいる水蒸気量とそのときの気温に対する最大限の水蒸気量(飽和水蒸気量)との比を百分率で表したものである。また水蒸気量は空気に対する水蒸気の分圧と比例するので,ある温度の空気の水蒸気圧とそのときの気温に対する飽和水蒸気圧との比と考えてもよい。この関係を式に表すと次のようになる。
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 これに対して,空気1m3の容積中に含まれる水蒸気の質量(g)を絶対湿度という。
同じ空気であっても,その空気の温度や圧力を変えると水蒸気圧,相対湿度,絶対湿度などは変化する。そのため,湿度を測定するときは温度や圧力の測定も同時に行って補正を加えることが必要となる。
2 湿度計
 空気中の湿度を測定する湿度計のおもなものは,ここで取り上げた乾湿計(乾湿球湿度計)のほかに,毛髪湿度計,露点計,電気抵抗式湿度計などがある。
(1) 乾湿計(乾湿球湿度計)
 同型同大の温度計を2本並べ,一方の感温部をガーゼで包んできれいな水で湿らせたもの。湿球の示度は水の蒸発のために乾球の示す気温より下がっている。湿球と乾球の示す温度差は水の蒸発量に依存しており,水の蒸発量は空気中の水蒸気圧に依存している。このため,乾球と湿球両方の示度を読みとり,乾湿計の実験式を用いて相対湿度を求めることができる。
 乾球と湿球のまわりに一定の速さの風を当てる装置を付けた通風乾湿計(「アスマン通風乾湿計」が一般的)では精度のよい測定ができる。
(2) 露点計
 露点を測定する温度計で,露点と気温がわかれば湿度が計算できる。おもなものに冷却式露点計と塩化リチウム露点計がある。
 冷却式露点計は金属鏡の温度を下げて,その表面に露が現れる温度から露点を測定する。
(3) 電気抵抗式温度計
 乾湿部の電気抵抗が相対湿度によって変化することを利用したものである。
3 気圧
 気象では大気圧の強さを気圧という。ある場所の気圧は,そこの単位面積の上に大気の上限まで鉛直にのびた気柱の重さと考えてよい。したがって高所では気柱が短くなり気圧は低くなる。
 気圧の単位は以前はmb(ミリバール)を使用していたが,現在ではhPa(ヘクトパスカル)が使われている。1mb=1hPaの関係があるので数値は変わらない。
 気圧の測定は古くから水銀気圧計が使われており,このことから気圧を表す単位としてmmHgを使うこともある。一般に地表付近の気圧を1気圧(atm)としているが,これらの単位の関係は次のとおりである。
  1atm = 760mmHg = 1013hPa = 1013mb
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4 気圧計
 気圧を測定する気圧計は英語ではバロメーターbarometerという。また気圧の変化が天候と関連が深いことから晴雨計とよぶこともある。よく使われている気圧計は水銀気圧計とアネロイド気圧計である。
(1)水銀気圧計
 水銀気圧計はトリチェリの実験(1643年)として知られており,気圧とつり合っている水銀柱の高さを測定している。1気圧につり合う水銀柱の高さは760mmであり,気圧を直接測定していることになる。試しの活動のウェザーグラスは水銀気圧計の簡易版と考えてよい。
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(2) アネロイド気圧計
 イタリアのビディVidieが1843年に考案したもので,空気を密閉した(又は真空の)金属製の缶が気圧の変化によって変形するのを拡大して表示するようになっている。アネロイドaneroidというのは,水銀気圧計に対して”液体を用いない”という意味である。
アネロイド気圧計の目盛りは水銀気圧計と比較して定めるが,金属缶の変形や拡大方法又は温度変化による誤差を防ぐ方法など様々な工夫が行われている。
5 気圧の海面更正と高度計
 測定地点の高度が高くなれば気圧は低くなる。したがって海面より高い場所(ほとんどの学校)では1atm(=1013hPa)より低い値を示す。他の地点のデータと比較するためには,海面上の値に変換する必要がある(海面更正)。地上天気図などに表記されているのは海面更正した気圧である。
 逆にある地点の気圧がわかれば,その地点の高度が求められることから,気圧高度計として利用することもできる。