1 研究に取り組んだ観察,実験(4 化学変化と原子・分子)


 1分野下 単元導入実験 カルメ焼き



2 観察,実験のねらい
 煮詰めた砂糖液にふくらし粉を入れて作るカルメ焼きには,気体が発生したと思われる空洞がたくさんあり,ふくらし粉が熱によって変化したのではないかという推測を基に,分解への興味・関心を高める。


3 観察,実験の実際
 砂糖液の温度が125〜130℃になったら,容器を火から下ろし,少量の炭酸水素ナトリウムを加えてかき混ぜるという方法が最も簡単な方法である。その他,インターネットのWebページなどで様々な作り方が紹介されている。
 ○加熱容器→銅製の容器を使う方法,アルミニウム製の容器を使う方法,ステンレス製の容器を使う方法,スプーンを使う方法,お玉杓子(じゃくし)を使う方法,片手なべを使う方法 など
 ○砂糖の種類→上白糖を使う方法,グラニュー糖を使う方法,三温糖を使う方法,ざらめを使う方法 など
 ○炭酸水素ナトリウムの加え方→炭酸水素ナトリウムだけを加える方法,重曹卵(卵白と炭酸水素ナトリウムと砂糖を混ぜたもの)を加える方法 など


4 問題点
 カルメ焼きづくりは,本単元の導入の実験であり,学習への関心・意欲を高めるために大切な実験であるが,次のような問題がある。
(1) 砂糖が膨らまない,膨らんでも固まらずしぼんでしまうなど,カルメ焼きがうまくできないため,気体発生を推測するための空洞を見せることができない。
(2) 成功率が極めて低いため,生徒は「なぜ膨らまないのか」ということだけにこだわってしまい,炭酸水素ナトリウムの熱分解に意識が向かない。


5 観察,実験のポイント
(1) カルメ焼きの原理
 砂糖液を125℃〜130℃まで加熱するのは,ショ糖分子を重合させ(直鎖状の高分子にする),粘度を高めるためである。その後,加熱容器を火から下ろし,温度が下がり始めると砂糖の結晶化が始まる。このとき,炭酸水素ナトリウムを加えると,炭酸水素ナトリウムが熱分解して二酸化炭素と水が発生し,それらの気体が成長していく砂糖の結晶に取り囲まれて逃げ場をなくし,全体が膨らんでカルメ焼きができる。
 砂糖の結晶化と気体の発生のタイミングを合わせることが大切であり,そのためには温度管理が最も重要なポイントとなる。
(2) 加熱容器の種類
 銅製やアルミニウム製の容器は,熱伝導率が高く温度管理がしやすいが,ステンレスの容器でも十分である。
 容器の大きさは,熱容量が大きく,温度管理がしやすい大きめのものがよい。容器が小さいと,熱容量が小さいため,短時間で温度が上がりすぎたり,下がりすぎたりしてうまくいかない場合が多い。
(3) 砂糖の種類
 ざらめ,三温糖,上白糖の3種類で調べた。
 ざらめは,よく水に溶かさないと焦げ付きやすく,色の変化も分かりにくい。三温糖も色の変化が分かりにくい。
 上白糖は,125℃前後で色が褐色に変わり始め(写真2),135℃前後でその色は更に濃くなる(写真3)。砂糖の色は,加熱容器を火から下ろすタイミングを知る一つの手掛かりとなるので,上白糖やグラニュー糖を使用するとよいことになる。


画像


(4) 水の量と火加減,温度管理
 砂糖に加える水の量は,それほど厳密に調整する必要はなく,砂糖が浸る程度でよい。火加減は,中火がよい。次のような場合は失敗することがあるので気を付けなければならない。
○ 水が余りに多すぎると,水の蒸発に時間を要し,温度上昇に時間がかかる。
○ 水が余りに少なすぎると,水が早く蒸発し,砂糖の結晶が析出して重合が進まず,カルメ焼きはできない。
○ 火が弱すぎると,低い温度で水が蒸発し,砂糖の結晶が析出して重合が進まず,カルメ焼きはできない。
○ 火が強すぎると,短時間加熱のため重合が進まず,砂糖が焦げて,カルメ焼きはできない。
 温度によって,泡の出方に変化があり,これも加熱容器を火から下ろすタイミングを知る一つの手掛かりとなる。温度による泡の変化を次に示す。
○ 100℃前後→水の沸騰により全体が煮立ち,やがて水がなくなると小さな泡が出てくる。
○ 130℃前後→小さな泡が少なくなり,粘りのある大きな泡が出てくる。
○ 135℃前後→粘りけが強まり,小さな泡が再び出てくる。
 砂糖の色の変化や泡の変化は,砂糖の量や加熱容器の種類,火力などで,かなり違ってくる場合が多い。したがって,砂糖の色や泡の状態だけ判断せず,200℃温度計を使ってしっかりと温度管理をすることが最も大切である。水の沸騰で100℃付近では温度がなかなか上がらないが,110℃付近から急に温度の上がり方が速くなるので,100℃に達してからは温度計から目を離してはならない。右図のように,200℃温度計を割りばしに挟んで,セロハンテープで固定したかき混ぜ棒で混ぜながら温度を確認する。
画像


 135℃を超えると,砂糖が固まらず粘りけも弱くなり,炭酸水素ナトリウムの熱分解でできた気体が逃げてしまうので,砂糖は膨らまない。125℃に達したら,すぐに加熱容器を火から下ろす必要がある。
(5) 炭酸水素ナトリウムの加え方
 砂糖液の温度が125℃に達したら,加熱容器を火から下ろし,浮いている泡が小さくなるまで(約10秒間)待つ。これは,余熱で砂糖液を130℃にするためであり,加熱容器の材質や大きさによって待つ時間は異なる。
 その後,すぐに小指先ほどの量の炭酸水素ナトリウムを加える。炭酸水素ナトリウムだけを加えると,一度膨らむものの,やがてしぼんでしまう場合が多い。しぼまないようにするためには,重曹卵(卵白と炭酸水素ナトリウムと砂糖を混ぜて,クリーム状になるまでよく練ったもの)を使うとよい。
 卵白は,熱せられてタンパク質が凝固し,気体が逃げ出すのを防ぐ働きをする。砂糖は,カルメ焼きが固まるときに砂糖を結晶化させるための結晶核となる。各材料を厳密に計り取る必要はないが,1/2個分の卵白と炭酸水素ナトリウム50gを混ぜてよく練った後,砂糖8gを加え,軽くかき混ぜるとよい。
 卵白の代わりに,片くり粉,小麦粉,米粉などを用いてみたが,いずれもうまくいかなかった。
(6) 重曹卵を加えた後のかき混ぜ方
 重曹卵を加えたら,重曹卵を押しつぶすようにしながら一気にかき混ぜ,全体に重曹卵が広がるようにする。激しく泡が出るが,そのまま激しくかき混ぜる。激しく混ぜながら色が変わり硬くなってきたら,真ん中からかき混ぜ棒をそっと抜くと,やがて砂糖が大きくふくらんでくる(写真4)。
画像


 かき混ぜ棒を抜くタイミングが難しいが,激しくかき混ぜていると少し硬くなり,容器の底をかき混ぜ棒がこするような感触を得たら,静かにかき混ぜ棒を抜く。
※ 上述したことをまとめると,次のようになる。
@ 重曹卵を作る。
1/2個分の卵白に,炭酸水素ナトリウム50g程度加え,クリーム状になるまでよく練る。クリーム状になったら,砂糖を8g程度加えて軽くかき混ぜる。
A 金属製の加熱容器に砂糖を7分目まで入れ,水を砂糖が浸る程度加えて中火にかける。温度計付きかき混ぜ棒で混ぜながら加熱していく。
B 110℃位から急激に温度が上がりだすので,温度計から目を離さない。
C 125℃になったら,加熱容器を火から下ろす。
D 浮いている泡が小さくなったら(約10秒),小指の先程度の大きさの重曹卵をかき混ぜ棒に付け,重曹卵を押しつぶすようにしながら一気にかき混ぜる。
E 色が変わり少し硬くなって,容器の底をかき混ぜ棒がこするような感触を得たら,静かにかき混ぜ棒を抜く。


              (垂水市立大野中学校  矢野 智士)