実践事例(地学分野)


 「霧や露はどのようにしてできるか」(実験 霧や露ができる条件を調べよう)



(1) 研究のねらい
 小単元「霧や露はどのようにしてできるか」の目標は,水蒸気が水滴に変わる条件を調べる実験を行い,その結果を基に霧や露のでき方を,気温や飽和水蒸気量,湿度の変化と関連付けて理解し,露点,飽和水蒸気量,湿度について説明できるようにすることである。
 しかし,教科書に示されている方法で霧や露ができる条件を調べようとすると,ビーカーの内側が曇るため,発生した霧が見えにくかったり,温風でペットボトルを一様に温めることが難しいため,ペットボトル内が白く曇るときの温度(霧や露のできる温度)を測定しにくかったりして,大気中の水蒸気が凝結する現象が,気温,飽和水蒸気量及び湿度の変化と深くかかわっていることを理解させるには,十分とは言えなかった。
 そこで,私たちの生活に密接にかかわっている「霧や露の発生原因」が,明確にかつ定量的にとらえられるようにするとともに,驚きや感動を伴って学習できるように実験を改善することにした。


(2) 研究の実際
ア 観察,実験の問題点
 教科書に掲載されている「霧をつくってみる」実験方法は,ぬるま湯(30〜40℃)と何も入れない二つのビーカーに,それぞれ氷と少量の水と食塩(寒剤)を入れた丸底フラスコを載せ,ビーカーの後ろに黒い紙を立てて,部屋を暗くし,光を当てて中の様子を観察して比べるものである。(写真1)
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 「霧や露のできる温度をはかる」実験方法は,ペットボトルにペットボトル全体がうすく曇る程度の湯気を入れ,温めたり冷やしたりして,ペットボトルの中の変化を観察し,ペットボトルの内壁が白く曇るときの温度
【写真1】
を測定するものである。
 これらの実験は,「空気が冷やされて,空気中の水蒸気が霧に変わるのは,空気の湿り気が多いときか少ないときかを調べる」ことと,「湿った空気が冷やされ,水蒸気が凝結し始める温度を測定し,露点の意味を知る」ことが目的であり,実際に霧や露を作って観察できるので,気象現象に関する生徒の興味・関心を高めるためには効果的である。しかし,これらの方法では気温や湿度の条件だけでなく,ビーカーが曇って明確な霧が見えにくかったり,測定している温度がペットボトル表面の温度ではないため,正確な露点を得られなかったりすることが多く,気象の基本的概念を習得させるのに適した実験とは言い難い。(写真2)
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 そこで,これらの問題点を解決するために,実験の改善と教材教具の開発に取り組んだ。
イ 観察,実験のポイント,新たに開発した教材教具
 「霧をつくってみる」実験では,湿度の高いビーカーの中に霧の発生が確実に観察できるようにするための改善,開発を行った。「霧や露のできる温度をはかる」実験では,露点を正確に測定できるようにするための改善,開発と,授業構成の工夫を行った。
(ア) 「霧をつくってみる」実験
 この実験で霧を観察しやすくするためのポイントは,ビーカーの内壁が曇らないようにすることと,発生する霧の量を多くすることである。そのためには,実験に使用するビーカー全体の温度を一様にすることが大切である。そこで,ぬるま湯(30〜40℃)を使って実験する方法の改善と,ぬるま湯の代わりに,熱湯や常温のエタノールを使って実験する方法の開発に取り組んだ。
a ビーカーの内壁を曇らせずに,発生する霧の量を多くする工夫
 水蒸気を凝結させるには,凝結核となる粒子が存在する方がよい。そこで,雲を発生させる実験と同じように,ビーカーに線香の煙を入れ,煙の粒子が核となり,霧が発生しやすくなるようにした。
b ぬるま湯を使う方法の改善
 写真3のように,ぬるま湯をビーカーに入れたまま実験を行うと,ビーカーが曇ってしまう。それは,ビーカー全体の温度が一様になっていないからである。
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 そこで,ビーカーにぬるま湯をこぼれない程度にたくさん入れ,ビーカー全体を温めることにした。約1分後,ビーカー全体の温度が一様になったら,ビーカーにぬるま湯が深さ5o程度残るまで捨て,線香の煙を少量入れる。その後,ビーカーに寒剤を入れた丸底フラスコを載せる。
 このようにすると,ビーカーの内壁は曇らず,確実に霧を確認することができる(写真4)。ビーカーを温めた後のぬるま湯を,すべて捨ててしまっても霧の発生を確認できるが,長時間霧を観察することができない。
c 熱湯を使う方法の開発
 霧を多く発生させるにはビーカー内の湿度を高くし,寒剤を入れた丸底フラスコとの温度差を大きくすればよい。そこで,ぬるま湯ではなく,熱湯を使うことにした。
 ビーカーに熱湯をこぼれない程度にたくさん入れ,ビーカー全体の温度を一様にする。その後熱湯を捨て,ビーカーに線香の煙を少量入れ,寒剤を入れた丸底フラスコを載せる。そうすると,ぬるま湯を使ったときより多くの霧が発生し,水滴が対流している様子を観察することができる(写真5)。
d 常温のエタノールを使う方法の開発
 より多くの霧を発生させ,長時間霧を観察させるには,気化しやすい液体でビーカーの内壁を湿らせればよい。そこで,エタノールを使うことにした。
 常温のエタノールをビーカーに深さ5o程度入れ,線香の煙を少量入れ,寒剤を入れた丸底フラスコを載せる。そうすると,熱湯を使ったときよりも多くの霧が発生し,霧の対流の様子も長時間観察することができる。(写真6)
 ただし,この霧は水滴ではないので,生徒にあらかじめモデルであることを伝えておく必要がある。
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(イ) 「霧や露のできる温度をはかる」実験
 この実験で露点を正確に測定できるようにするためのポイントは,温風でペットボトル全体を一様に温めることである。そこで,ペットボトルの種類や容量を変えたり,ペットボトルに入れる湯気の量を変えたりして,正確な露点の測定を試みた。どの方法でも,温度変化によってペットボトルの内壁が白く曇ったり,透明になったりすることは観察できた。しかし,ペットボトル全体を一様に温めることは難しいことと,ペットボトルの内壁の温度を測定していないことから,正確な露点は測定はできなかった。露点測定の実験では,どのグループも同じ温度で水蒸気の凝結が始まるという事実を確認させなければ,きまりを見いだすことはできない。
 そこで,ペットボトルを使った実験は,水が温度変化によって水蒸気や水滴に変化することを観察するためだけに用い,露点測定には金属製のコップを使った実験を用いて授業を構成することにした。
a 金属製のコップを使った露点測定の実験
 まず,金属製のコップにくみおきの水を約1/2入れる。次に,コップに少しずつ氷水を入れていく。よくかき混ぜながら,コップの表面に水滴が付き始めるときの温度を測定する。
 一度にたくさんの氷水を入れると,水滴が付き始めたのを確認しにくい。時間をかけてゆっくり氷水を入れ,よくかき混ぜることが大切である。
b 授業構成の工夫
 夏の暑い時期に,冷たい飲み物を入れたコップに水滴が付く現象を生徒はよく知っている。また,水蒸気の凝結については小学校第4学年で学習している。しかし,「コップに付いた水滴は,間違いなく空気中の水蒸気が凝結してできたものである」と納得できるような事象を見たことはなかったようである。
 そこで,上皿てんびんの一方の皿に常温の水を入れた金属製のコップを,もう一方の皿に冷水を入れた金属製のコップを載せて釣り合わせ,徐々に上皿てんびんの釣り合いが変化していく様子を,事象提示として行うことにした(写真7)。
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 このことによって,水蒸気の凝結が納得でき,凝結する条件や凝結する温度を探ろうとする生徒の探究心が高められると考えた。
ウ 実証授業の流れと結果及び考察
(ア) 「ぬるま湯」と「金属製のコップ」を使った実証授業の流れ
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(イ) 結果及び考察
 上皿てんびんの冷水を載せた方の質量が大きくなるという事象提示については,コップに水滴が付いたからだという理由をすべての生徒が指摘できた。その水滴は,空気中の水蒸気が冷やされて出てきたということも,すべての生徒が予想できた。このことから,この事象提示は温度による水蒸気の変化をイメージさせるのに有効であったと言える。
 「霧をつくってみる」実験では,ぬるま湯でビーカー全体の温度を一様にし,線香の煙を少量入れたことで,ビーカーの内側が曇ることもなく,すべてのグループが霧の発生を観察することができた。霧が発生する現象を見て,生徒の中から「もっと多くの霧を発生させられないだろうか」という意見が出され,丸底フラスコの温度を下げたり,ビーカーに残すぬるま湯の量を変えたりするなど,霧の発生に関係する要因を自由に変えながら,意欲的かつ主体的に実験に取り組んでいた。さらに,教師が熱湯を使った実験を見せると,その霧の多さに感嘆の声が上がり,湿度が高くて空気と寒剤との温度差が大きいほど多くの水滴が発生することを理解していった。こうした生徒たちの様子から,霧の発生を確実に観察できる実験の工夫が,生徒の興味・関心を高め,霧の発生条件についての理解を深めるのに有効であったと言える。
 なお,この実験で用いた寒剤を入れた丸底フラスコは,冷やされた地面のモデルである。つまり,実際に自然界で起きている霧の発生は,このモデル実験の上下が逆である。このことを事前に指導しておいたので,自然界で起こっている霧の発生をイメージ化させることができた。
 「霧や露のできる温度をはかる」実験では,まずペットボトルを用いた実験で,温度が上昇すると水滴が消え,温度が降下すると水滴が見えてくることをすべてのグループで確認できた。その後の金属製のコップを用いた実験では,導入段階でコップの表面が曇ってくるという現象を見ており,ゆっくり冷やしていくという注意を与えていたので,すべてのグループで露点測定をほぼ正確に行うことができた。このことによって,生徒たちは露点がどのグループもほぼ同じ値になったことに疑問をもち,次時の「空気中の水蒸気量(湿度)」に関する学習への意欲が高まったと考えられる。
(3) 実証授業の成果と課題
 今回の研究では,教科書に示されている方法を基本とし,よりはっきりと,より正確な結果が出るように,実験方法の工夫・改善と授業構成の工夫に取り組んだ。生徒たちが意欲的,主体的に学習に取り組み,霧や露のできる条件を見いだすことができたこと,水蒸気の凝結を実感することができたこと,すべてのグループで露点をほぼ正確に測定できたことなどから,本小単元のねらいを達成することができたと考える。
 地学分野における観察,実験は,モデルを用いて,自然の事象を再現するものが多い。実際に起きている自然事象は,要因が複雑に絡まっていて単純ではない。したがって,今回の霧や露の発生のように,ある特定の現象を理解させるためにモデル実験を行う場合は,起こるべき現象の阻害要因を可能な限り取り除くことが必要である。また,「霧をつくってみる」実験では,ぬるま湯を熱湯に替えて湿度や温度差を大きくしたように,現象が起こる条件を強調することで理解を深めさせることができる。その際,実験で用いている器具が何のモデルであるのか,変える条件は自然界の何を変えているのかなど,モデルの意味をしっかり指導することも理解を深めさせる上で重要である。
 「霧や露のできる温度をはかる」実験では,金属コップによる露点測定を付加した。このように,教科書に示されている実験だけではきまりを見いだせないと判断した場合,より正確な結果が得られるような実験を付加したり,新しい実験方法を開発したりする必要がある。
 今回,「霧をつくってみる」実験では,エタノールを使った実験は授業で取り扱わなかった。この実験では,最も多く霧が発生するものの,その霧はエタノールの霧であり,水蒸気の変化ではないので,生徒が混乱してしまうのではないかと考えたからである。このように,生徒の実態を踏まえ,適切な観察,実験を取捨選択することも大切である。
 また,エタノールを使った実験は,第1学年1分野の「物質の状態変化」の導入で事象提示としても活用でき,一つの教材を深く追究していくと,他の単元でも活用できるような教材のヒントを得られる場合があることも分かった。


              (笠沙町立笠沙中学校  大迫 俊浩)