1 研究に取り組んだ観察,実験(1 身のまわりの現象)


 「光はどのように進むのか」(実験 鏡や透明な物体に当たった光の進む道すじを調べよう) 

 「凸レンズでどんな像ができるか」(実験 凸レンズによってできる像をしらべよう)



2 観察,実験のねらい
 大単元「身近な物理現象」は,第1分野の最初の単元である。そのねらいは,「身近な事物・現象についての観察,実験を通して,光や音の規則性,力の性質について理解させるとともに,これらの事象を日常生活と関連付けて科学的にみる見方や考え方を養う」ことであり,身近な事象を科学的に分析・考察することが求められていると言える。
 光,音,力に関する事象は,極めて日常的なものであり,生徒は特に注意して観察することはない。例えば「ものが見える」,「音が聞こえる」などは,生徒にとって日常生活の中では当たり前のことであり,何の疑問も感じない場合が多い。そのような事象を第1分野の最初で取り上げることには,身近な事象の中に問題を見いだし,その問題を科学的に解決していくことのよさやおもしろさを実感させることで,理科の学習に対する関心や意欲を高めるというねらいがあるものと考える。
 光については,反射や屈折の規則性を見いだす実験,凸レンズによる実像や虚像のでき方と物体との位置関係に関する規則性を見いだす実験が行われる。生徒にはこれらの実験を通して見いだした規則性を使って,日常生活で観察される様々な事象を説明できるようになることが求められる。しかし,生徒は実験結果について,暗幕を閉めた暗い教室という特殊な環境の下で得られたものという認識をもちやすく,そのため日常生活で観察される事象と結び付けることが難しい。さらに,凸レンズを使った実像や虚像の実験では,空間を進んでいる光の様子を直接観察できないため,実像や虚像のできる理由を実感を伴って理解することができない。
 そこで,暗幕を使わずに,実感を伴った理解を深めることのできる光の実験方法を開発することにした。


3 観察,実験の実際と問題点


(1) 光の反射や屈折を調べる実験
 光の反射や屈折の実験で一般的に用いられる光源装置を,暗幕を閉めずに使用できないか確かめてみた。その結果が,写真1と写真2である。
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 この写真のように,暗幕を閉めないと光の進む経路を確認することは難しい。したがって,この実験を行う場合は暗幕を閉め,教室を暗くする必要がある。ところが,この実験を行う時期はもっとも暑い時期に当たるため,暗幕を閉めると教室の蒸し暑さのため,生徒の集中力が持続しない。このことからも,暗幕を閉めないで行える実験を工夫する必要がある。
(2) 凸レンズによってできる実像や虚像を調べる実験
 凸レンズによってできる実像や虚像を調べる実験で,像として映し出すための物体としてろうそくがよく用いられる。そこで,暗幕を閉めないでろうそくの実像をスクリーンに映し出すことはできないか調べた。
 写真3は夜間,教室の蛍光灯を点灯して行った実験結果である。この実験では,炎だけでなく白いろうそくの全体像が,薄くスクリーン上に実像として映し出されている。しかし,昼間の教室で実験を行った場合,発光部分である炎の像は確認できても,それ以外の部分の実像はほとんど確認できず,光源以外の部分で反射した光が凸レンズを通過して像を結んでいることを実感させることは難しい。
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 また,この実験後の考察では,生徒はスクリーン上に結像する理由を,焦点を通過している光や凸レンズの中心を通過している光の経路を図に記していく必要がある。しかし,この実験では凸レンズを通過している光の経路を確認することはできないので,生徒は「この実験で得られた結果」と「光の経路の作図」とをうまく結び付けることができず,とまどいを感じてしまう。


4 観察,実験の改善のポイント,開発した教材教具


 前述したような問題点を解決するためには,観察,実験にレーザーポインタからのレーザー光を活用することが有効であると考えた。
レーザー光は,高輝度で直進性に優れるため,暗い空間でなくても光の到達点を示すことができる。しかし,レーザー光は,点から発せられた光が点へとたどり着くため,光の経路を平面上に表すのが難しい。そこで,レーザーポインタの先に短く切ったガラス棒を付け,レーザー光をスリット光にする自作のシリンドリカルレンズを用いて,光の実験を効果的に行えるように工夫した。
ア 自作シリンドリカルレンズ付きレーザーポインタの製作
 レーザー光を平面上に拡散させるために,レーザーポインタの先にガラス棒を短く切ったものを,両面テープで張り付ける。これをシリンドリカルレンズ(円柱状レンズ)と言う(写真4)。
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イ ホワイトボードの活用
 光の反射や屈折の実験では,記録用紙上で光源装置から出たスリット光を鏡や半円形レンズに正確に当て,その状態を保ちながら光の経路を記録用紙に記録する必要がある。実験操作に習熟していない1年生にとっては,この操作を煩雑に感じるようである。また,この実験はグループで協力して行わなければならないため,生徒一人一人が納得するまで実験を行わせることができない。
そこで,実験の簡便化,個別化を図れるように,レーザーポインタや半円形レンズ,凸レンズに磁石を張り付け,ホワイトボード上にそれらを固定して,簡単に光の経路を記録できるように工夫した(写真5)。ホワイトボードや磁石は100円ショップ等で安価に購入できる。
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 写真6,写真7,写真8は,この装置を使って行った実験の結果である。このように自作シリンドリカルレンズとホワイトボードを用いると,暗幕を閉めて教室を暗くしなくても,鮮明に光の進む様子を観察することができる。
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ウ 凸レンズによってできる実像や虚像を調べる実験の工夫
 凸レンズによってできる実像や虚像を調べる実験で,像として映し出す物体としてろうそくを使うと,物体から実像との間における光の経路を確認することはできない。生徒の思考がその後の作図による考察にスムーズにつながるようにするため,ろうそくを使った実験の後にレーザーポインタを使って凸レンズを通過する光の経路を確かめる実験を付加した。
 レーザーポインタを光学台に固定するために,鉄板と磁石で写真9のような装置を作った。また,イで述べたホワイトボードも活用し,凸レンズを通過する光の経路を確認させた。
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 写真10〜15は,次のような実験の結果を示している(写真10,12,14の実験では,自作シリンドリカルレンズレンズは取り外して実験を行った)。
○ 写真10と写真11→凸レンズの軸と平行にレーザー光を入射させた。第2焦点を通るように光が屈折する様子が分かる。
○ 写真12と写真13→レンズの中心を通るようにレーザー光を入射させた。光がそのまま直進する様子が分かる。
○ 写真14と写真15→第1焦点を通るようにレーザー光を入射させた。レンズの軸に平行になるように光が屈折する様子が分かる。
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5 実証授業の流れと結果及び考察
 (1) 凸レンズを通る光の経路を調べる実証授業の流れ
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 (2) 結果及び考察
 これまでの授業では,生徒は実験によって「スクリーンに像が映った」という事実を確認しただけで,実験の意味を深く理解することなく,いきなり光の経路の作図による実像と虚像のでき方についての説明を聞く流れになっていた。そのため,作図する直線や矢印が何なのかを理解できず,つまずく場合が多かった。
 今回の授業では,「凸レンズを通る光の経路を確かめる実験」を取り入れたことにより,「光の経路を作図により解釈する」への思考がスムーズにできたのではないかと考える。像のでき方について,写真等を見ながら教師の説明を聞くより,実験によって凸レンズによる光の進み方の規則性を見付け,その規則性を手掛かりに像ができる理由を考察する方が,実感を伴った深い理解につながるのである。授業を受けた生徒たちからは,「資料集に載っている写真と同じだ」,「本当にそうなっているんだ」という感想が多く出され,十分に納得した様子であった。
 レーザーポインタを活用したことも効果的であった。光の進む経路がはっきりと確認でき,規則性が明確に分かるため,生徒は意欲的に実験に取り組んだ(写真16)。カーテンを閉めなくてもよい点,明るい中で教科書等を参考にしながら実験を行える点なども,レーザーポインタを使用するよさである。
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6 実証授業の成果と課題


 今回の研究では,光の実験において,明るい中でも生徒が光の進み方をはっきりと確認しながら規則性を見いだし,実感を伴って理解を深められるような教材教具の改善,開発に取り組んだ。研究の成果として次のことが挙げられる。
○ ガラス棒を短く切ったものをレーザーポインタの先端に付けることによって,簡単にシリンドリカルレンズ付きレーザーポインタとして活用することができる。
○ 光源装置を使用するよりもレーザーポインタを使用した方が,光の進む経路を明確に確認させることができ,生徒は規則性を見いだしやすい。
○ レーザーポインタを使用すると暗幕を閉める必要がないので,生徒は教科書や板書などを積極的に活用しながら実験を進めることができる。
○ 自作シリンドリカルレンズ付きレーザーポインタとホワイトボードを併せて活用することにより,実験の個別化が図られ,生徒は納得するまで実験を行うことができる。
○ 凸レンズによってできる実像や虚像の学習では,レーザーポインタやホワイトボードを使って光の経路を確かめる実験を組み込むことが,実像や虚像ができる理由を理解させる上で極めて有効である。
 特に,「凸レンズによってできるろうそくの実像や虚像を調べる実験」と「光の経路の作図による解釈」の間に,「凸レンズを通る光の経路を確かめる実験」を組み込んだことが効果的であったことから,生徒の理解を深めるには,生徒のつまずきに適切に対応し,明確な規則性を見いだせる実験を付加する必要があることが分かった。
 課題としては,凸レンズにレーザー光を当てて屈折する様子を観察する実験で,レーザー光を凸レンズのある特定の位置に正確に入射させるために,レーザーポインタの位置を3次元的に調整する操作が意外と難しいことが挙げられる。これができなければ,再現性のある実験結果は得られない。今後,調整が簡便にできるよう,装置を工夫していきたい。
 シリンドリカルレンズを使ってレーザー光をスリット光にすることにより,レーザー光のエネルギーを分散させることができる。しかし,レーザーポインタを使用するに当たっては,「実験以外には使用しないこと」,「絶対にのぞき込んだり,他人の目に当てないこと」などの約束を守らせる,徹底した安全指導を行わなければならないことは言うまでもない。
                                (姶良町立重富中学校 教諭 南木 純一)