1 研究に取り組んだ観察,実験(4 化学変化と原子,分子)


  第1分野下「物質どうしは結びつくか」(実験 水素と酸素の化合) 



2 観察,実験のねらい
 大単元「化学変化と原子・分子」においては,生徒は分解や化合といった基本的な化学変化を目では見えない原子や分子のモデルで考察することにより,物質に対する微視的な見方や考え方を身に付けていく。
 中単元「物質の変化」では分解を中心に取り扱い,分解によって生じる物質からそれ以上分解できない単体を定義し,物質を構成している原子・分子について学習する。中単元「物質どうしの化学変化」では,単体同士の化合を中心に取り扱い,原子同士が結び付くことによって全く性質の異なる物質ができることを学習する。
 このように,実験を通してきまりを見いださせる授業では,可能な限り実験を行うとともに,目的に合ったデータを得ることが理解を深める重要な鍵となってくる。しかし,実際に実験を行ってみると,意図したとおりの実験結果が出てこない場合がある。中でも,水素2体積と酸素1体積を化合させ水を生じさせる実験では,反応後気体が残り,水が水素原子2個と酸素原子1個が結び付いた物質であることを実感させられない。
 そこで,水素と酸素を化合させる実験において,実験の精度を上げて化合後に残る気体をできるだけ減らす方法,水素が燃焼すると水ができることを実験を通して実感させる方法を工夫するともに,あわせて,それらを生かした授業構成を工夫することにした。


3 研究の実際
(1) 観察,実験の問題点
 教科書に示された方法で実験を行うと次のようになる。ただし,水素と酸素の化合は激しい爆発を伴うので,安全性を考慮し,ビニルチューブを用いたユージオメーターを使用した。
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 @ ビニルチューブに水を満たし,水そうの上に立てる。
 A 市販の実験用水素ボンベと実験用酸素ボンベから,水上置換によって体積比が2:1になるように気体を注入する。
 B 点火装置により気体を爆発させる。
 水素2体積と酸素1体積を反応させると,理論上は完全に反応して水になり,ビニルチューブの中には気体が残らないはずである。しかし,実際にはかなりの量の気体がビニルチューブの中に残ってしまう。これでは「水が水素原子2個と酸素原子1個が結び付いている物質である」という生徒の理解を深めていくことはできない。
(2) 観察,実験の改善のポイント,新たに開発した教材教具
 水素と酸素の化合の実験で,気体が残ってしまう原因を次のように考えた。
・ ボンベの中に不純物が混ざっているのではないか(実際,ボンベには95%と記載されている)。
・ 水素と酸素の水に対する溶解度の違いがあるのではないか。
 そこで,水素と酸素の化合実験において気体が残る原因を探るため,次のa〜gのように条件を変えて教材研究を行った。


a 水素と酸素を,それぞれ実験用ガスボンベから水上置換によってユージオメーターに体積比2:1の割合で入れ,点火する。(ガスボンベから排出される最初の気体には,空気が多く含まれている。そこで,できるだけ純粋な水素と酸素を集めるために,数秒間,水中でガスボンベから気体を排出した後,化合に用いる気体を捕集する必要がある。)
b 水素と酸素の混合気体を実験用ガスボンベを用いてユージオメーターに入れ,十分に振って気体を溶かし込んだ後,残った気体を捨てる。その後,再度,実験用ガスボンベを用いて水素と酸素を2:1の割合で入れ,点火する(酸素の溶解度の方が水素の溶解度より大きい。この溶解度の違いによって水素が残るのではないかというWebページ,「http://www13.ocn.ne.jp/~r ikasoma/you.htm」の情報を参考にした)。
c 水素と酸素の混合気体を実験用ガスボンベを用いてユージオメーターに入れ,十分に振って気体を溶かし込んだ後,残った気体に点火する。さらに残った気体を捨て,再度,実験用ガスボンベを用いて水素と酸素を体積比2:1の割合で入れ,点火する。
d 既に溶けている気体の影響を考慮し,一度水を沸騰させた後,50℃まで冷まし,cと同じ操作で実験を行う。
e できるだけ純粋な水素と酸素を得るために,炭酸ナトリウム水溶液を電気分解し(写真2),その際発生した混合気体(水素:酸素=2:1)に点火する。
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f bのように,水に混合気体を十分に溶かし込んだ後,eのように電気分解で得た混合気体に点火する。
g 電気分解により得られた混合気体は,溶解度の影響により,完全な2:1の体積比になっていない場合が考えられる。そこで,cの操作を行った後,電気分解で水素と酸素を別々に回収し(写真3),その二つの気体を混合して点火する。
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 次の表は,a〜gの実験によって得られた結果である。(a〜fの「水素」と「酸素」及び「残った気体」の値は,ユージオメーターに記入した1pごとの目盛(写真4)で読み取ったものである。gは電気分解を行うとき利用した目盛付き試験管(写真3)から読み取った値であり,このデータのみ,単位はp3である。
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 このように水素と酸素を2:1で混合し,点火して反応させても,残る気体がなかなか0にならない。これは水素と酸素の水に対する溶解度の違いが一番大きいようである(水1Lに対する溶解度…水素0.018L:酸素0.031L)。
 この実験結果から次のようなことが言える。
 ア この実験を行う前に,ユージオメーター内の水に水素と酸素を十分溶かし込むとよい。
 イ 溶解度を下げるために実験に利用する水の温度を上げるとよいが,やけどが心配になる。
 ウ ガスボンベよりも精度を上げるために,電気分解で水素と酸素を別々に集めるとよい。このとき,水素と酸素の体積比が2:1になるように調節する。
 このア〜ウの操作を行うと残留気体はかなり少なくなる。gの実験では残留気体がほとんど気にならない程度になった(写真4)。
(3) 実証授業の流れと結果及び考察
 ア 水素と酸素の化合の実験を用いた実証授業の流れ
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イ 結果及び考察
 この授業では,金属以外の物質と酸素の化合を題材に,実験を通してモデル図をつくっていく授業展開にした。木の燃焼に酸素が必要なことと,石灰水が白くなることから二酸化炭素が発生していることは小学校6年生で学習している内容である。この二つのことからモデル図をつくらせ,木が炭素を含んでいることを確認した。
 次は水素の燃焼である。水素に火を近付けると激しく燃焼することは,第1学年で学習済みである。ただ,燃焼した後どうなるのかについては意見が分かれた。生徒の予想としては,「何もなくなる」,「二酸化炭素になる」,「空気になる」,「水になる」「水蒸気になる」などが出てきた。
 水素の燃焼は水素と酸素の化合であり,反応後に水ができることを見せるためにはユージオメーターだけでは不十分である。なぜなら,ユージオメーターでは反応後,水蒸気がすぐに水となり体積が減少するため,ユージオメーター内に水槽の水が入り込んできて,水が生成したことが確認できないからである。そこで,ユージオメーターを使用する前に水素爆鳴気を使い,水素と酸素の化合から水ができることを確認させた。
 写真5は,袋の中に水素と酸素を入れ,点火装置により反応させる実験である。袋の種類によっては,反応によって発生する熱によって袋が破けてしまうことがあった。写真6は炭酸飲料用のペットボトルの上部を切り取り,下部を開放形とした,安全性を高めた実験装置である。点火装置で点火するとペットボトルの内側に水滴が付着するので,水素と酸素から水ができることが分かる。クラスによって写真5又は写真6の実験のどちらかを行った。どちらも生徒は水素の爆発音に驚くとともに,水ができることを確認することができた。
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 この水素爆鳴気の実験を行った後,前単元で学習した水の電気分解の話をすると,生徒は水素と酸素の化合は水の電気分解の逆だと気付くとともに,「やっぱり水は水素と酸素が2:1で結び付いたものなのかな」と言い始めた。そこで,今回研究したユージオメーターを使って演示実験を行った。生徒が予想したとおり,水素と酸素が体積比2:1のとき完全に反応するのでほとんどの生徒は大きくうなずき,理解を深めたようであった。しかし,生徒の中には気体がなくなったという者もいた。水蒸気が水となり,水槽の水と一緒になってしまったことを補足説明する必要があった。ユージオメーターを用いた実験を行う前に,「水ができるならば,反応後ユージオメーターの中はどうなるはずか」と生徒に問い掛け,予想を立てさせておく必要もあったと考える。


4 実証授業の成果と課題
 この実験は爆発を伴うので生徒は強い関心を示す。水素と酸素が反応し爆発したら水ができることと,体積比が2:1であることをその後の定期テストに出題したが,通過率がかなり高かった(通過率87%)。また,この実験は生徒の印象にもかなり強く残り,生活の記録に「水素の爆発実験は怖かったけど面白かった」と書いたり,学級担任へ興奮気味に話をしたりしていたとのことである。
 生徒のつまずきや理解不足を補うためには,新たな実験を付加したり,きまりが明確に分かるように実験を工夫したりすることが極めて重要であることが分かった。また,このことにより生徒は実感を伴って理解を深め,理科学習への意欲を高めていくことも分かった。今後も,安全で精度の高い実験を開発していきたい。


                      (串木野市立串木野中学校  土岐 邦寿)
                    (共同研究者 加世田市立津貫中学校  高橋 慎二)