1 研究に取り組んだ観察,実験(6 地球と宇宙)


  第2分野下「季節はなぜ生じるのか」(実験2 季節ごとの太陽の光の当たり方のちがいを調べよう)



2 観察,実験のねらい
 小単元「季節はなぜ生じるか」のねらいは,日常生活での体験とモデル実験とを関連付けながら,季節による太陽の光の当たり方や昼夜の長さの違いを,地球の公転や地軸の傾きとの関係においてとらえることができるようにすることである。
 本来ならば,季節ごとに透明半球等を使って,太陽の位置を一定時間ごとに観察させ,太陽高度や昼夜の長さを測定するなど,年間を通して変化をとらえさせる必要がある。しかし,長期間の観察は現実的には困難であるため,それを写真資料やコンピュータシミュレーションで補う場合が多く,生徒の主体的な探究活動を引き出すことが難しい。
 そこで,季節ごとの太陽の光の当たり方や昼夜の長さの違いを,視覚的に明確に確認できるとともに,実験によって得られた数値データを基に,生徒が主体的に思考できるようなモデル教材を開発することにした。
 また,地学領域の魅力でもある時間的,空間的なスケールの壮大さをできるだけ実感できるような教材開発に取り組み,生徒が日常生活に大きなかかわりをもつ地球や太陽などの天体に対して,宇宙の神秘さを感じ取ることができるような授業展開を工夫する。


3 観察,実験の実際


 教科書に掲載されている実験は,分度器のコピーを張った厚紙を図1の@ように地球儀の上に立て,そこに光を当てて,影が分度器の中心を通るように紙で光をさえぎることによって,季節ごとの光の入射角(=太陽の南中高度)を測定しようとするものである。
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4 観察,実験の問題点


 この実験は分度器のコピーを張った厚紙を,垂直に地球儀の上に固定する点が難しいが,影がしっかり分度器の中心を通っていれば,簡単に光の入射角を測定することができる。しかし,次のような問題点もある。
@ 影が分度器の中心を通っているところの角度を測定することが,太陽の南中高度を測定しているということをイメージできる生徒は少ない。普段見上げる太陽の高度や,透明半球を使った太陽の動きの観察とあまりにもかけ離れた実験方法なのである。そのため,途中で実験の目的を忘れてしまい,地球の公転や地軸の傾きと関連付けて季節ごとの太陽の光の当たり方を考察できない場合が多い。
A 季節ごとの昼の長さを測定することができない。昼の長さがどこからどこまでなのか,視覚的にはっきりせず,その長さをひもや巻き尺で地球儀上で測ることは不可能である。
B モデルを用いた実験によって,季節ごとの太陽の光の当たり方や昼夜の長さの違いを実感させるためには,光の入射角や地球儀上で昼にあたる部分がどこなのかを視覚的にはっきりさせることが必要となる。また,光の入射角や昼の長さが変わることを,モデル実験で得られた数値データを基に地軸の傾きと関連付けて考察させるためには,モデル実験で観察される事象を数値化する場面も必要となる。


5 観察,実験のポイント,改善した教材教具


 前述のような問題点を解決するため,次の点をポイントに,観察,実験の改善に取り組んだ。
・ 光の入射する道筋がはっきり見えて,前時に学習した南中高度がモデル上でも把握できるようにし,生徒が測定しているものが南中高度であることに気付くことができるようにする。 
・ できるだけ大きな地球儀でモデル教材を製作し,昼夜が視覚的にはっきり分かるようにする。さらに,明確になった昼の長さを,簡単に数値データとして計測できるようにする。
・ 発展的な学習にも,活用できるようにする。ここでは,地球の自転による太陽の1日の動きを天球上で確認させ,相対的な見かけの動きを体験的に理解させる。
 <南中高度と昼の長さを測定するモデル教材>
@ 市販の地球儀を分解し,固定部分から球形を取り外す。今回使用したのは直径が30pの地球儀である。図2のようにその両極を通る長ネジ(長さ70p,直径5mm程度)を差し込み,両極から蝶ネジで締めて固定する。
A ベニヤ板,アルミニウムパイプ(直径8mm),分度器,蛍光紙,蝶ネジ,ナット等で,図3のように地軸の傾きを±23.4°の範囲で変更できる台を製作する。
B 図4のような教具設置台を木材で製作する。カメラの三脚は,下部の木材に固定されてある。この三脚には,レーザーポインタを付けられるように工夫した。
C 直径10cmの透明半球を,方位を記したアクリル板(13×16p)の上に接着する。このアクリル板は,地球儀に面ファスナーを利用して固定する(写真4)。
@〜Cを合体させると,今回使用したモデル教材の完成である(写真3)。
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<モデル教材の活用方法>
ア 季節ごとの昼の長さを測定する。
 理科室を暗幕で真っ暗にして,図5のように地球模型と光源(懐中電電灯:ハロゲンライト)を設置する。光源との距離は140cmとした。
地球儀には,直接,昼の長さを測定できるように,時間や長さの単位の目盛りを入れておくと,測定するときに大変役立つ。写真1は,夏至の日における昼の長さを,写真2は冬至の日における昼の長さを観察しているところである。昼の部分が,視覚的にはっきりしていて,昼の長さの測定も非常に簡単に行うことができる。
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イ 季節ごとの南中高度を測定する。
 写真3のような実験装置で,三脚にはレーザーポインタを装着しておく。また,レーザー光線が見やすいように,透明半球の中には線香の煙を入れておく。
 図6のように,レーザー光線を平行光にして中心Oに当たるように固定する。透明半球内に,はっきりとレーザー光線が見えたら,専用の分度器(写真4:分度器のコピ−を厚紙に張ったもの)で,南中高度を測定する。                
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ウ 透明半球上で,太陽の1日の動きを観察する。
図6のモデル教材を利用すると,透明半球上で季節ごとの太陽の1日の動きを擬似的に観察することができる。
まず,レーザー光線が当たった透明半球上に印を付ける。次に地球儀を自転の向きに少し回転させ,同様にレーザー光線が当たった透明半球上に印を付ける。この操作を繰り返し,透明半球上に付いた印をなめらかな線で結ぶと太陽の動いた道筋が描かれる。
自転させる人とレーザー光線を当てる人の動作がスムーズに連動すると,透明半球上にレーザー光が動く様子を観察できる。このことで,生徒は,太陽の1日の動きが,地球の自転による見かけの動きであることを実感することができる。
また,この操作で地球儀上のあらゆる所,例えば赤道や北極,南半球での太陽の動きを調べることも可能である。
(3) 実証授業の流れと結果及び考察
ア 南中高度と昼の長さを測定するモデル教材を用いた実証授業の流れ
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イ 結果及び考察
 予想の段階で,生徒たちは季節が生じる理由を「地軸の傾きが原因だ」ということに漠然と気付いている。しかし,「地軸の傾きによって何が変わるからか」ということについて説明させると,「地軸の傾きによって太陽と地球の距離関係が変わってくるから」と答える生徒が多かった。地軸の傾きによる太陽の光の当たり方の違いにまで気付いていないのである。
 この実験で,夏至の日と冬至の日の太陽の光のの当たり方を観察させたところ,「きれいだ,小宇宙のようだ」という感激から始まり,すぐに「光の当たっている部分の大きさが違う」ことに気付く生徒が多かった。地球儀上の目盛りで,その昼の長さを測定した結果から,生徒たちは,「なるほど,光の当たり方によって,昼の長さが違うんだ」,「太陽に対して,地軸がこんなふうに傾いているときが,夏至の日なんだ」と考察をすることができた。
 次に,夏至の日,冬至の日の南中高度の測定の実験では,地球儀に固定した透明半球内に,鮮明に光の入射を観察することができた。生徒は,「きれいだ」という感想とともに,「南中高度は,ここの角度を測ればいいんだね」と専用の分度器で自分から測り出した生徒もいた。「冬至の日は,僕にやらせて」と意欲をみせる生徒もいて,教材そのものが生徒の主体的な探究活動を引き出しているかのようであった。
モデル教材を利用して,太陽の1日の動きを擬似的に観察する発展学習では,「なるほど,太陽の天球上の動きがよく分かる」,「『見かけの動き』という意味が分かった」など,天文分野の学習で一番理解が困難と考えられる相対的な見かけの動きや考え方を体験的に理解させることができた。
 次はこのモデル実験における,昼の長さと太陽の南中高度の測定結果である。
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6 実証授業の成果と課題
 今回の研究では,季節ごとの太陽の光の当たり方の違いや昼夜の長さの違いを,生徒が視覚的に確認でき,かつモデル実験によって結果が数値データとして得られるように教材教具の改善,開発を行った。研究の成果をまとめると,以下のとおりである。
○ 光の当たり方や光の入射による太陽の南中高度をはっきりと視覚的に確認できた。
○ 昼の長さや太陽の南中高度を,モデル実験で測定できるように工夫したことで,地軸の傾きによる昼の長さや南中高度の違いを視覚的に確認するだけでなく,明確な数値データを基に理解させることができた。
○ 相対的な見かけの動きや考え方を体験的に理解させることができた。
○ 視覚的に効果のある教材教具で,生徒の主体性や探究活動を引き出すことができた。
○ 教材教具の改善,開発を行うことで,その実験で生徒がつまづきやすい点や理解しにくい点が明確になり,それを課題にさらに工夫を重ねていくことができた。
 地学領域において,自然現象をモデル教材で学習する授業は,大変効果的である。特に,天文分野の学習において,モデル教材を利用することが多い。しかし,実際の事象は複雑な要因が絡まっていて,簡単にモデル化できるような単純なものではない。学習成果を求めるあまり,事象を極端に単純化したモデルを用いてしまうと,生徒に誤概念を形成させてしまうこともあり得る。
 モデル教材を利用することの多い地学領域では,そのモデルがもつ意味をしっかりと指導する必要がある。また,モデルを用いた実験の後,再度モデルと実際の事象を結び付けて説明を行い,自然の複雑さや精妙さを感じさせることも大切である。


                                    (大根占町立池田中学校  野添 誠)