1 研究に取り組んだ観察,実験

 

  1分野上   2 身の回りの物質   エタノールの温度変化を調べる実験  

 

2 観察,実験のねらい

(1)    沸点について理解する。

(2)    沸点は物質の種類によって決まっていることを理解させる。

(3)    エタノールが沸騰している間の温度は一定であることをとらえさせる。

 

3 観察,実験の問題点

(1)    エタノールが引火しやすい物質で,直接火で加熱することが危険であるため,湯煎で加熱する。そのため,ビーカーの湯量と試験管内のエタノールの量の割合によっては,エタノールの沸点まで達することができない場合がある。また,温度上昇が急激すぎると,沸騰がいつ始まったのかがわかりにくい。

(2)    授業が行われる時期が冬場であるため,湯が冷めやすい。

 

4 観察,実験の改善のポイント,改善した教材教具

(1)       実験に使う薬品等の分量などの条件を変えて期待する結果が得られる条件を探る。

  【湯量による温度低下の度合い】

    ビーカーにそれぞれポットの湯を入れ,ガスバーナーで加熱し,沸騰した後に火を消して温度の変化を調べる。

※ 500mlビーカーを用いると,グラフのように温度低下は少ないのだが,沸騰させるまでに時間がかかる。200mlビーカーでは温度が下がるのが早いため,300mlビーカーを用いることにする。

(2)       エタノールを直接火で加熱できないので,エタノールを加熱する湯の温度をできるだけ下げないように工夫する。

   ア 発泡スチロールを用いる

    

イ 電熱線(6V−18W)を用いて,湯を加熱する。

ウ 物質を溶かした湯を用いる。

(ア)      食塩

(イ)      PVAのり   @水250ml のり  50ml

           A水200ml のり100ml

     

エ 水に保冷剤を加えて加熱・沸騰させた湯を用いる。

       

 

5 改善した方法での結果

  保冷剤入りの300mlの湯でエタノール10mlを加熱した。

 

6 実験の考察

 300mlビーカーに入った湯の温度低下と湯の温度を下げないために行った工夫を比較した。

 

○ 発泡スチロールにビーカーを入れて保温するという方法がもっとも手軽でよいのではと考えたが,約3分後までは発泡スチロールに入れたときの方が温度の減少が大きかった。ガスバーナーで加熱し,沸騰させてそのまま三脚&金網にのせた状態にする方が三脚と金網が温まっているため,発泡スチロールよりも保温効果があったと思われる。しかし,3分半以降は三脚と金網が金属のため熱伝導が大きく,早く冷えるので,発泡スチロールの方が温度低下が抑えられた。

  また,発泡スチロールにビーカーをすっぽり入れるとビーカー内部の様子が見えにくいため,試験管に入れたエタノールの状態変化の様子が観察しにくいという欠点がある。

○ 次に,火で加熱できないなら火を用いらない方法で湯を加熱してやればよいと考え,熱量の実験で用いる電熱線(6V−18W)を利用し加熱した。しかし,写真にあるように実験器具が大がかりになるため,準備に時間を要する。また,手間取る割に思ったほどの効果が得られなかった。

○ 何か他にお湯の温度を下げない方法はないかと考え,お湯に何かとかしてみたらどうなるだろうと思い,理科室にある身近な物質ということでまず食塩を溶かして行ってみた。沸点もわずかに上昇し,グラフの通り,ただのお湯だけの時と比べて1℃以上の差が出た。意外と簡単な方法だったにもかかわらず,思った以上の効果があった。

○ 次に他の物質ではどうだろう,粘性のあるものではもっと効果があるのではと考え,理科室にあったスライム作りに使用するPVAのり(洗濯のり)を使用した。@水250ml+のり50mlとA水200ml+のり100mlの2パターンで実験した。グラフからわかるように,食塩の時よりも温度低下が抑えられ,より粘性を高くしたAの時の方が温度低下の度合いが少なかった。

  やっているときの様子で感じたことは,のり入りの水の方はただの水を加熱したときより細かい気泡がどんどん出てくるためビーカー内部の様子がやや見えづらい。また,沸点に近づくと泡立ち,吹き上がってくる。300mlビーカーに300mlの液体を入れて実験していたので,@の時はぎりぎりこぼれなかったが,Aの実験を行ったときは吹きこぼれてしまった。また,加熱をやめ温度が下がってくると水面に膜のようなものが張ったので,より温度低下を和らげる効果があったのだろうが,ビーカーがべとついて後片づけが大変だった。

○ デザート等を購入するときについてくる保冷剤は逆に保温剤・蓄温材としてのはたらきはないのかと考え,保冷剤を入れた状態で同様の実験を行ったところ,今まで以上の効果があった。保冷剤の中身の温度もかなりの高温になっていたため,湯の温度低下がかなり食い止められた。湯に入れてあたためても,ビニールが破裂したり,吹きこぼれたりすることもなく,この方法がもっとも効果的ではないかと考えられる。保冷剤の中身の正体は水・吸水性ポリマー・防腐剤・形状安定剤などで,ここで用いられている吸水性ポリマーはポリアクリル酸ナトリウムといわれるものがほとんどであり,安全性でも問題はないと考えられる。

○ 実証実験を行った時期が夏場で,実際に授業を行うのが冬場であるため,より湯の冷め方が激しいと思われる。その場合はエタノールの量を少し減らして調整する必要がある。

 

                        大口市立大口中学校 齊藤 美保