1 研究に取り組んだ観察,実験 (4 化学変化と原子・分子)

 

  沸騰している水から出てくる気体と,水に電流を流して出てくる気体のちがいを分子のモデルで考えよう  

 

2 実験観察のねらい

平成13年度教育課程実施状況調査の,「水の分解反応をモデルで説明する」問題における本県の中学2年生の通過率は46.7%であり,また平成16年度「基礎・基本」定着度調査の,「水が液体から気体(水蒸気)になるときの状態変化をモデルであらわす」問題における中学2年生の通過率は37.5%であった。「原子・分子」の単元における理解度が低く,粒子概念が確立されていないことがわかる。県総合教育センターの指導資料理科第249号(平成17年5月発行)においても,「分子の考え方が定着していない」という粒子概念に関する課題が挙げられている。

「原子・分子」という直接観察することが難しい内容については,模式的な図や具体的なモデルで考えさせ,生徒の概念形成を支援する手だてを工夫する必要があるが,この単元ではドルトンの原子説が正しければこうなるはずであるという演繹的な学習が展開されるため,主に化学変化が取り扱われる。「状態変化で体積が変化するのはなぜか」など初歩的な粒子の考えで説明できる状態変化については,1年の「身の回りの物質」の単元で取り扱われるため,状態変化を物質の粒子性を使って詳しく説明していない。

そこで,この「原子・分子」の単元の最後において,沸騰している水から出てくる気体が水であることを実験を通して確認するともに,あわせて,状態変化と化学変化の違いを粒子によるモデルで確認する授業構成を考え,生徒の粒子概念の定着をはかる授業を構成することにした。

 

3 観察,実験の実際と問題点

教科書では,水の状態変化の分子モデルと,水の電気分解の分子モデルが示されているが,説明が十分ではないと感じる。水の電気分解の実験は,水素と酸素の発生のようすがよくわかるため,水が水素と酸素の化合物であるということは理解しやすい。しかし気化や液化は,自然の中で普通におこっている現象にもかかわらず,水蒸気が目の前で液体に変化するようすを観察する経験が少ないため,水の分解を学習した後では「沸騰している水から出る泡も,水素と酸素である」という誤った認識をもつ可能性がある。状態変化を分子モデルであらわす授業を構成し,状態変化と化学変化の違いを明確にする必要がある。

 

4 観察,実験の改善のポイント,開発した教材教具

 (1) 水蒸気を集める実験

小学4年の教科書に載っている「水蒸気を集める実験」では,水の気化と液化が同時におこるため,水の液化を理解しにくく,また無色透明な気体である水蒸気を,白い気体であると間違ってしまいがちである。

そこで写真1のような教具を使って,水の気化と液化をわけて観察できるようにした。水が沸騰し始めると三角フラスコ内に気体が集まるようすがわかる。最初は泡が途中で消えてなかなか集まらないので,この泡は水素や酸素ではないと予想することができる。沸騰が盛んになると無色透明な気体がすごい勢いで三角フラスコに集まる(写真2)。

 

 

 

 

 

 

 

                              【写真1】

気体が十分集まったあとに加熱をやめると,三角フラスコの中の気体がみるみるうちになくなることから,生徒は発生した気体は水蒸気であり,加熱をやめることで水に戻る(液化)ことに気づく。このことはガスバーナーで加熱したり,加熱をやめたりすることで,何度も繰り返して確かめることができる。

 

 

        【写真2】                       【写真3】                        【写真4】

 

この教具を開発するにあたり,最初は口径25mmの試験管を用いていたが,なかなか気体が集まらなかったので,500mlのアルミ缶を切り(写真3),口径30mmの200ml三角フラスコをかぶせることにした(写真4)。アルミ缶の口と三角フラスコには少し隙間が出来るが,その部分まで水を入れることで,三角フラスコに空気が入ることなく実験することができた。

200mlの三角フラスコは容量が大きいため,水が沸騰するまでは時間がかかるが,沸騰したあと水蒸気が集まるのを観察しやすい。ただ三角フラスコに水蒸気が集まった分,水がビーカーの方に押し出されるので,背の高いトールビーカーを使った方が安全である。

 (2) 分子の動きが温度により異なることが分かる演示実験@

状態変化を原子・分子のモデルを使って説明するためには,「物質を構成している原子・分子は,熱運動という不規則な運動をしており,固体,液体,気体という3つの状態は,粒子の熱運動の大きさが温度により異なるために生じる」という分子運動論を,簡単に取り扱う必要がある。そこで分子の動きが温度により異なることを,水とお湯を使って確認する演示実験を考えた。

500mlのビーカーに,20℃の水と,80℃のお湯を入れ,インクを1滴滴下する。1分(写真5)で差が一見られ,5分(写真6)たてばお湯のほうはインクが様に拡散することが観察できる。

温度が高いということは,分子の運動が激しい(分子1個1個の動きが速い)ということ,また水溶液の濃さが均一であるのは,インクの分子,水の分子が運動しているからであることが考察できる。

(3) 分子の動きが温度により異なることが分かる演示実験A

固体,液体,気体という3つの状態は,粒子の熱運動の大きさが温度により異なるために生じる。水が水蒸気になると体積が増えることを確認する演示実験を考えた。

丸底フラスコ内の水が沸騰してから,風船をつけたゴム栓をかぶせると,みるみるうちに風船が大きくふくらむ(写真7)。加熱をやめると風船がしぼみ始め,風船の中に水滴ができる様子が観察できる(写真8)。

この実験から,水が水蒸気になると水分子は非常に激しく飛び回り,体積も非常に大きくなる(約1672倍)ことが考察できる。

 

5 実証授業の流れと結果及び考察

(1) 「沸騰している水から出てくる気体と,水に電流を流して出てくる気体のちがいを分子のモデルで考える」実証授業の流れ

 

(2) 結果及び考察

これまでの授業では,生徒は水の電気分解による気体の発生は粒子的な考えで詳しく説明されても,水が水蒸気になる状態変化については,粒子的な考えで説明されることが少なかった。また気化や液化は,自然の中で普通におこっている現象にもかかわらず,水蒸気が目の前で液体に変化するようすを観察する経験が少ないため,水の分解(化学変化)を学習した後では「沸騰している水から出る泡(状態変化)も,水素と酸素である」という誤った認識をもつ可能性があった。

今回の授業では,沸騰すると水蒸気が集まり(気化),加熱をやめると水に戻る(液化)状態変化に気づかせた。そして状態変化をモデル化させることで,状態変化と化学変化の違いを確認させることができ,生徒の粒子概念の定着をはかることができたと思う。

 

6 実証授業の成果と課題

今回の授業では,沸騰すると水蒸気が集まり(気化),加熱をやめると水に戻る(液化)ことを観察できる教材教具の改善,開発に取り組み,状態変化と化学変化の違いを粒子によるモデルで確認する授業構成を考えた。研究の成果として次のことが挙げられる。

○「水蒸気を集める実験」の教具を開発することにより,水の気化と液化をわけて観察できるようにできた。

○「水蒸気を集める実験」の教具を開発することにより,水蒸気は無色透明な気体であることがわかるようにできた。

○「分子の動きが温度により異なることが分かる演示実験」を工夫することにより,温度が高くなると,分子の運動が激しくなることがわかるようにできた。

○「分子の動きが温度により異なることが分かる演示実験」を工夫することにより,水溶液の濃さが均一であるのは,水の分子が運動しているからであることがわかるようにできた。

○「分子の動きが温度により異なることが分かる演示実験」を工夫することにより,水が水蒸気になると水分子は非常に激しく飛び回り,体積も非常に大きくなることがわかるようにできた。

○状態変化と化学変化の違いを粒子によるモデルで確認する授業構成を考えることにより,生徒の粒子概念の定着をはかることができた。

課題としては,「原子・分子」は直接観察することが難しい内容なので,教材教具の開発が難しいこと。粒子の概念を確実なものにするための,中学1年から系統的に授業を進めるための手引きをまとめることが挙げられる。

(鹿児島市立緑丘中学校 教諭 柏木 昇)