1 研究に取り組んだ観察,実験

 

  ミジンコを使った顕微鏡の基礎操作の習得  

 

2 観察,実験のねらい

  中学校理科2分野では,本格的な学習に入る前に,ルーペの使い方やスケッチの仕方,顕微鏡の使い方といった基礎操作の学習が行われている。顕微鏡の基礎操作は,水中の小さな生物を観察することを通して,プレパラートの作り方や顕微鏡の正しい操作を習得させることが目的である。生徒にとってミジンコは,その名前は知っているが姿形についてはあいまいであり,実際に肉眼で見ることができると理解している生徒は多くはない。水槽を注意深く観察すると,細部までは確認できないが,ミジンコが水中を活発に動いている様子が肉眼でも確認され,顕微鏡低倍率での観察が容易なため,基礎操作の確認には最適であると考えた。また,そのミジンコを動物のからだのしくみや食物連鎖,生殖などの領域で活用できるのではないかと考えた。

 

3 観察,実験の実際と問題点

界 :動物界

門 :節足動物門

亜門:大顎亜門

綱 :甲殻綱

亜綱:ミジンコ亜綱(鰓脚亜綱)

下綱:ミジンコ下綱

目 :ミジンコ目(枝角目)

亜目:異脚亜目

科 :ミジンコ科

属 :ミジンコ属

種 :ミジンコ 

  今回の研究にあたり,まずミジンコについて基本的なことをまとめた。

一般にミジンコと呼ばれているものには,以下のような

 ものがある。

・ ミジンコ亜綱ミジンコ目のもの

・・・ゾウミジンコやマルミジンコなど多数

・ カイムシ下綱カイミジンコ目のもの

・・・カイミジンコ

・ カイアシ下綱のもの

・・・ケンミジンコ

・ ミジンコ目ミジンコ科の1種

・・・学名:Daphnia pulex 和名:ミジンコ

  通常は無性生殖で雌のみだが,環境が悪化すると休眠卵を産み,死んでしまう。

今回の研究にあたっては,カイミジンコ(南さつま市立万世中学校体育館横で採集したもの。)とケンミジンコ(教材業者より購入したもの。)を使用した。

                           

卵塊からとれたもの

   カイミジンコ(×100)     ケンミジンコ(×100)

 (1) カイミジンコ:

2枚の殻の中に入っていて,からだの各部をはっきりと確認することはできないが,心臓の拍動は確認することができる。また,一口にミジンコといってもその種類は様々で,いろいろな形態をしたミジンコがいるということを理解させるには効果的であると考える。さら

に,1個体が大きく,肉眼ではっきりと容易に確認することができる。

  (2) ケンミジンコ:

今回業者からミジンコを購入した際,通常販売しているミジンコが激減したとの理由で,野外で採集したケンミジンコが同時に送られてきた。通常のミジンコは長期間飼育できなかった。通常のミジンコに比べてやや小さいが,注意深く水槽を観察すると肉眼で確認することができる。(確認できたときの生徒の喜びは大きく,歓声が上がった。)

 

   飼育については,全滅を避けるため,いくつかの水槽に分けた。特に密度は多くなかったので,エアレーション等は行わなかった。また,えさとしては,「わら」の煮汁や,ドライイーストを水で溶いたものを少量加えた。今回は,何度か全滅を繰り返してしまい,安定して長期間飼育できるという状況は確立できなかった。

 

4 観察,実験の改善のポイント,開発した教材教具

  教科書(東京書籍2分野上巻)ではP7からP8にかけて「水中の小さな生物を顕微鏡で観察しよう」いう活動が掲載されている。そこでは,アメーバやクンショウモ,ツリガネムシ,アオミドロ,ハネケイソウとともに,ミジンコが掲載されており,その縮尺も掲載されている。掲載された写真やその縮尺により,顕微鏡で観察する際の対物レンズの選択に見通しをもって観察ができるということは,中学校の理科学習においては重要な技能の一つであると考える。しかし,実際は水中の様々な微生物を見つけることができなかったり,身近に川や海,池,水槽などがなかったりするため十分な観察を行えず,顕微鏡の基礎操作があいまいになりがちである。実際に顕微鏡を使うつど,操作法を確認しながら習得させることも多かった。

  顕微鏡を置く場所について1学年1学期中間テスト,期末テストにおいて出題したところ中間テストでは75%,期末テストでは60%の正答率(中間では適語補充形式,期末では記述式)であった。また対象物を視野の中心にもってくるためのプレパラートの動かし方についての問題では,中間テスト40%,期末テスト65%の正答率であった。

  そこで今回は,まず肉眼で観察し,ミジンコは水中の小さな生物の中では比較的大きな存在であることを理解させ,顕微鏡の基礎操作を確認しながら高倍率で観察する必要はないこと(高倍率ではかえって観察しにくい場合があること)を実感させたい。また,実際にプレパラート上で動いている様子を確認させ,視野の中央に対象物をもってくるためには,プレパラートをどの方向へ動かせばよいかを実感させながら理解させたい。

さらに,心臓の拍動を確認させ,生物としての基本的な体のつくりは我々と変わらないことを確認させたい。

 

5 実証授業の流れと結果及び考察

過程

授業の流れ

生徒の意識

導入

1 問題の把握

  ミジンコとゾウリムシの絵を描いてみる。

 

 

 

 

2 事象提示

  水中の微生物の観察

○ どちらも水中の微生物だ。でも,実はあんまりよく知らない。

○ 確かに水中には小さな生物がたくさんいる。

 

展開

3 課題確認

ミジンコを観察しながら顕微鏡の使い方を再確認しよう。

4 観察

ミジンコの観察

 

 

 

 

 

 

 

5 顕微鏡基礎操作の確認

 ・ プレパラート上で実際にどの方向に移動したかを確認し,プレパラートをどちらへ動かせばよいか,その時,顕微鏡下ではどちらに動いて見えるかを確認させる。

 

 

 

○ 大きいなあ。動いているのも分かる。心臓が確かに動いている。

○ プレパラートの動かし方の確認

終末

6 自己評価

○ 顕微鏡の基礎操作についての確認。

 

6 実証授業の成果と課題

○ 成果

 ・ 顕微鏡の基礎操作について,定着を図るために効果的であると感じた。

 ・ ミジンコのような水中の微生物についても,生物(動物)としての特徴の一端をはっきりととらえることができた。

 ○ 課題

  ・ 簡単で長期的に飼育できるようにしたい。

  ・ 当初計画していた,食性や走光性などについての確認をできなかった。

鹿児島市立伊敷中学校 尾堂秀一郎