1 研究に取り組んだ観察,実験(3 動物の世界)

 

  血液循環を視覚的にとらえやすくするための教材教具の工夫−第2分野「動物の生活と種類」−  

 

2 観察,実験のねらい

本単元は,身近な動物についての観察,実験を通して,動物のつくりとはたらきを理解させるとともに,動物の生活やその多様性についての認識を深めさせることをねらいとしている。

血液循環については,実物を確認するのは難しいため,図を使って説明し理解させることが多い。その中で,生徒たちは,動脈と静脈,動脈血と静脈血の意味は分かっても,しばらくすると動脈と動脈血,静脈と静脈血との区別がつかなくなり,血液の循環について総合的に理解しにくくなっていると思われる。

そのため,血管が全身にいきわたっていることを確認しながら,心臓が血液を循環させるためのポンプとしてはたらいていることや体循環と肺循環の血液循環について十分理解させることが必要であると考えた。

そこで,心臓につながっている血管の種類(動脈・静脈)や体循環や肺循環の道筋をおさえ,肺や全身のはたらきと関連づけながら動脈血と静脈血を理解するための教具を作ることにした。

 

3 小学校・高等学校との関係

(1) 小学校との関連

小学校では,6年生の動物のからだのはたらきのところで,消化や呼吸,血液の循環についての観察実験を行い,動物の体には必要な物質を取り入れ運搬し,不要な物質を排出するしくみがあることを観察や実験の結果と関連してとらえることになっている。

肺循環については,空気が鼻・口を通り,気管・左右の肺へ至ること,肺では空気中の酸素が血液によって体内に取り入れられ,体外へ二酸化炭素等が排出されることを学習する。

血液循環については,心臓が血液を送るはたらきをしていること,血液の通り道として血管があり,血液は,養分,酸素及び二酸化炭素を運ぶこと,酸素や二酸化炭素が多く含まれる血液の流れなどが教科書に記されている。心臓のつくりや動脈・静脈の語句については,発展の内容となっている。

(2) 高等学校との関連

高等学校生物Tの環境と生物の反応では,体液とその恒常性で取り上げられ,体液とそのはたらきや循環,恒常性の維持の原理,生体防御などを扱う。体液循環については,まず,ヒトの心臓が心房と心室から構成されているなどの内部構造や,意思とは無関係にたえず収縮と弛緩をくり返し血液を血管に送り込むなどのはたらきについて学習する。また,血液中のヘモグロビンのはたらき(酸素の受け渡し)やそれに伴う動脈血,静脈血について学習する。

 

4 観察,実験の実際と問題点

心臓は血液を循環させるためのポンプとしてはたらいており,心臓を中心に考えると,心臓から出る血液と心臓へ入る血液が流れている。そのため,血液循環の道筋が分かれば,心臓から血管がどこにつながるのか教具を使って考えることによって,動脈と静脈の区別が理解させやすくなる。また,肺や全身(各器官をまとめて)から心臓へつながる血管を通る血液の流れを理解させることは,動脈血(酸素が多く含まれているところ)と静脈血(二酸化炭素が多く含まれているところ)の流れている血管を考えやすくすることにつながる。さらに,図(ワークシート)と照らし合わせながら必要な物質(養分や酸素)を取り入れて運搬し,不要な物質(二酸化炭素)を排出するしくみを考察することができればとも考える。

これらのことは,「基礎・基本」定着度調査で明らかになった課題の解決にもつながる。

 

5 観察,実験の改善のポイント,開発した教材教具

(1) 観察,実験の改善のポイント

ア 人の血液循環は図による説明だけでは,動きがなく理解しにくいので,モデルを提示して説明する。

イ 心臓から出ている血管をホースの色を変えて提示することで動脈と静脈のちがいを理解させる。

ウ 動脈血や静脈血を血液が肺を通過したあとか肺に送られるまでの赤血球の流れ(動き)で理解させる。

(2) 開発した教材教具

ア 装置の概要

() 心臓の作成

・ ペットボトルを4個組み合わせる。(心房の部分は,曲線になっているペットボトル上半分を使い,心室は300mlのペットボトルを使う)

・ 血管のモデルには,透明で内径22mmのビニールホースを用いる。(ペットボトルの口に差し込める大きさ)

 

() 赤血球の作成

・ 血液の循環を確認するために,発泡スチロール球(直径12mm)を赤血球に見立てるために,動脈血は赤色,静脈血は黒色を塗り区別することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

() 血管の道すじ

・ ビニールホース内(内径15mm)を循環させるために,全身から心臓,肺までの血液の通り道(静脈血の通り道)を1本道にする。また,肺から心臓,全身の血液の通り道(動脈血の通り道)も1本道になるようにつなぐ。

・ ビニールホースが90度曲がるところは,ビニールホースが狭くなり発泡スチロール球が詰まるので,L字型の塩化ビニルパイプでビニールホースどうしをつなぎ,赤血球(発泡スチロール球)が血管内をスムーズに循環できるようにした。

・ 赤血球(発泡スチロール球)の循環は,掃除機を使い空気の力で循環させる。

イ 活用方法

() 心臓の模型

心臓につながっている大きな四つの血管である動脈,静脈の確認をする。

* 基本用語―動脈,静脈

() 血液循環の模型

・ 全身から肺までの血液の流れを確認する。(黒色発泡スチロール球の動き)

・ 肺から全身までの血液の流れを確認する。(赤色発泡スチロール球の動き)

・ 動脈・静脈の確認をする。(ホースに色をつける)

・ 動脈血・静脈血の確認をする。(血管に見立てた透明ホースの中の発泡スチロール球の色の違い)

 

6 授業の流れと結果及び考察

(1) 実証授業の流れ(※ モデルの製作時期との関係で,今回は3年生の復習として実施した。)

 (2) 結果及び考察

血液が,全身にいき渡っていることや肺で酸素を受け取って二酸化炭素を出すことは理解できたようである。また,心臓が血液を循環するために重要な役割をしており,血液循環させるためのポンプとしてはたらいていることは,動力(掃除機)を使用することから,血液を送るためには力が必要であることが理解できたと思う。血管については,動脈・静脈のちがいを教具の血液循環から理解し,血液については,動脈血・静脈血の血液循環で赤血球の色の違いや道筋などから理解し,図で確認することによって区別できたのではないかと思う。

 

7 実証授業の成果と課題

  この授業の主なねらいは,血管が全身にいきわたり,心臓が血液を循環させるためのポンプの役割をしていること,体循環と肺循環を理解し,血液循環について,肺や小腸などの各器官のはたらきと関連づけて考察できることとなっている。

その中で,血液循環の道筋を理解させることに重点を置き,人間に必要な酸素の血液による流れは理解できたと思う。しかし,各器官を全身としてひとまとめにしているので理解しにくい面もある。

  赤血球の流れを発泡スチロール球(赤血球)で行ったが,循環速度が速いため,ゆっくり進ませることが課題である。また,発泡スチロール球(赤血球)を両方同時に,循環することができると血液循環がイメージしやすいが,両方同時に循環させ続けることができないのが課題である。

  血液循環について,小学校では,血液は心臓から送り出され,血管を通って全身に運ばれることや血液が酸素や養分を運び,いらなくなった二酸化炭素は心臓にもどり,肺に送られ酸素と入れ替わることを学習する。心臓のつくりとはたらきや動脈,静脈については,発展の内容となっている。

  中学校では,心臓の役割や血液循環によって,肺や各器官とのはたらきと関連づけながら考察する。発展内容ではあるが,心臓のつくりについては,四つの部屋の名称や血液を送り出すしくみも記載されている。

  高等学校では,血液が酸素を受けとるためのしくみを細かく,また,各器官とのはたらきとの関係や心臓の四つの部屋の中の血液循環の経路を学習する。

  小学校や中学校の発展事項が上級学校の学習内容になり,高等学校では,小学校や中学校で学習したことを詳しく学習することになる。そのため,小・中・高の学習内容を知り,系統性を考えながら指導していくと,基礎・基本を身に付けやすく,学力の定着につながると考えられる。

 

湧水町立吉松中学校  引地 浩之