銅アンモニアレーヨンの合成

【教科・単元】

化学U「衣料の化学」

【実験の問題点】

 教科書や実験書では水酸化銅(U)を濃アンモニア水に溶かしてシュワィツアー試薬を得る方法が示されているが,市販の水酸化銅(U)は高価であり,通常の実験であまり用いないため,実験室に置いて高等学校も少ない。

【実験のポイントと工夫】

ポイント@ 多くの高等学校の実験室にあり,いろいろな実験での使用頻度が高い硫酸銅(U)を用いてシュワィツアー試薬を得る。

ポイントA 脱脂綿を溶かした溶液を希硫酸に押し出し,繊維を再生させる際の器具の工

     夫

【準備】硫酸銅(U),水酸化ナトリウム,硫酸の各1mol/L水溶液,濃アンモニア水,蒸留水,ビーカー,ガラス棒,ろうと,ろ紙,注射器等

【手順】

@ 硫酸銅(U)水溶液10mlに,水酸化ナトリウム水溶液20mlを加え,水酸化銅(U)を沈殿させる。(写真1)

A @をろ過し,蒸留水で数回洗浄した後,100mlのビーカーに入れる。(写真2)

    

写真1               写真2

B Aの沈殿に濃アンモニア水を8ml加え,沈殿を溶かす。(写真3)

C Bの溶液に脱脂綿約0.3gを,少量ずつちぎり,かき混ぜながら溶かす。(写真4)

    

       写真3                 写真4

D Cの粘性のある溶液を注射器等で吸い込み,希硫酸を入れたビーカーの中に静かに押し出す。(写真5,6)

    

写真5                 写真6

E      青みが抜けたら水洗いし,乾燥させる。

 

【授業の流れ】

過程

授業の流れ

留意点

導入

・前時の復習(再生繊維)を行う。

・本時の目的(銅アンモニアレーヨンの合成実験)の流れを理解する。

・再生繊維について,大まかな合成過程を示す。その際,合成繊維,半合成繊維などとの違いも簡単に触れる。

展開

・器具,試薬の確認を行い,実験操作を始める。

@硫酸銅(U)から水酸化銅(U)の合成。

A水酸化銅(U)からシュワイツァー試薬の合成。

B脱脂綿の溶解。

Cセルロースの再生。

 

・実験結果をレポートに記入し,考察を行う。

・シュワイツァー試薬の合成が一番手間取ると思われるので,効率的な操作を心がけさせる。

・脱脂綿の溶解は,後の操作に影響するため少量ずつちぎりながら,時間をかけて溶解させる。

・セルロースを再生させる場合は,ゆっくり一定速度で押し出すことを注意する。

・実験中は危険を伴うため,机間巡視で気を配り,適宜指導する。

終末

・本時の内容を振り返る。

・次時の予告。

 

 

【結果】

生徒実験の結果どの生徒も若干の差があるものの,銅アンモニアレーヨンを合成できた。

【生徒の感想】

○ 繊維が再生され驚いた。

○ シュワイツァー試薬に脱脂綿が溶けるのが不思議だった。

○ 注射器から押し出すのが難しかった。うまく糸状にならなかった。

 

【考察・感想】

○ 脱脂綿を溶かした溶液を注射器で吸い,希硫酸中に押し出すとき,注射器を一様の力でゆっくり押し出さないと,再生される繊維の形が“いびつ“になってしまう。

○ 注射針に繊維が詰まってしまい,再生がうまくいかない場合がある。

○ 注射針の代わりに,ストローや洗浄びんの先端を利用したり,注射器の代わりに駒込ピペットを利用したりしてみたが,これという物が見つからなかった。今後の検討課題である。

○ 硫酸銅(U)からシュワイツァー試薬を作る過程で,無機イオンの性質について戸惑いを見せる生徒がいたので,実験の説明の課程で,銅イオンの性質を再度確認することが必要であることが分かった。

 

 合成実験を行ったことで,生徒は再生繊維に関する興味・関心を持ったようである。今後,溶液を希硫酸に押し出し,繊維を再生させる課程での器具の工夫を検討したい。

 また,実験の過程で,錯イオン形成の復習を導入することで,確実な知識の定着の機会としたい。

 

(鹿児島県立財部高等学校 教諭 大浦竜二)