熱電対用電圧増幅器の製作
【目的】
 熱電対は,金属のエネルギーバンドの例としても利用可能な素材であるが,出力電圧が小さいので増幅する必要がある。そこで,オペアンプを用いた簡単な増幅回路を製作する。製作するのは1000倍増幅器である。
【教科・単元】
 100℃を超える高い温度を測定する必要のある単元
【準備】
・ 樹脂製密閉容器,スイッチ(小形),陸式端子(4個),IC94用ソケット(8ピン),抵抗(1KΩ,5.1KΩ,100KΩ各1),IC用基板(市販品),発光ダイオード(1個),アルミ板(5cm平方程度),ビス・ナット(3mm少々),ビニールコード(細いもの3色程度),オペアンプ(1個),電池(9V1個)
・ はんだごて,はんだ,ねじ回し,ニッパー,ラジオペンチ,ピンセット,ドリル,ドリル刃(3mm),その他必要な工具
・ オペアンプについては次表のものが同等品である。
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デュアルタイプのピン配置は下図のようになっている(各社共通)。シングルタイプについては購入店で写しをもらえばよい。
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【回路】
オペアンプはperational
Amplifier(演算増幅器)と呼ばれ,差動増幅器である。また,取り扱う信号はアナログ信号である。初期には真空管を使用した回路であった。理想のオペアンプは線形な入出力特性を示す。特に反転増幅(下図)をした場合,増幅率は二つの抵抗の比となる。(実際はV1が0のときのV2のオフセット電圧が加算される。)
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なお,電源は9Vの乾電池1個を使用するので±の増幅はできない。
【組立て】
1 プリント基盤は市販品を使用し,熱対策や故障対策を考えICソケットを使用した。
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また,回路の点検が楽なように,通常とは逆側(表側)にソケットや抵抗を取り付ける。
100kΩと1.0kΩの抵抗は増幅率に影響するので,通常はここに調節用の可変抵抗を入れるが,プログラム上でも増幅率を調整できるので,ここでは組み込んでいない。また,オフセット電圧(入力を短絡したときの出力電圧。0が理想である。)は出力値に加算されるが,これもプログラム上で調整可能である。
2 タッパーに下図のように穴をあけ,部品を取り付ける。
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* 回路図を基に配線する。スイッチや端子のラグへのはんだ付けは,容器に取り付ける前に行う。
* 抵抗のカラーコードは下表のようになっている。
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* 印刷が端の方に寄っている方が第1色帯。すべてΩ単位である。
【調整】
 完成したら入力側を短絡し,そのときの出力電圧を測定する。もし,電圧が−で表示されたら,出力側の極性が逆なので測定器の極を入れ替える。このときの電圧がオフセット電圧で,数mVである。それ以上ある場合は,配線ミスと考えられる。オフセット電圧は,常に出力電圧に加算されるので,実際の電圧は出力からオフセット電圧を引いたものである。
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4 熱電対の校正
 下図のようにして,10℃ごとに銅コンスタンタン熱電対の出力電圧を増幅し,電圧を読み取る。10℃〜90℃までの範囲で測定し,表計算ソフトでグラフを作成する。
 グラフは散布図を選び,近似曲線の追加で「多項式近似」を選択,さらに次数を4次程度にする。グラフだけ出力し,近似曲線から各温度に対する出力電圧を読み取る。グラフ作成時にはもとのグラフの色を白色にしておけば近似曲線だけ出力される。
 なお,0℃のときの出力電圧はオフセット電圧になる。
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 グラフから読み取った電圧の測定結果は,次のようになった。なお,表の理科年表に示された基準電圧は増幅していない場合のものである。
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【留意点】
・ 回路を十分点検してから通電する。
・ 電源が9Vなので,出力電圧が9Vを超えることは出来ない。したがって,1000倍増幅して9Vを超えると正しく増幅されない。
・ 使用したオペアンプは,片電源なので−の電圧の増幅はできない。−電圧を増幅するには,両電源タイプ(±電源)のオペアンプが必要である。
・ 熱電対に温度差を与えても電圧が生じない場合は,熱電対の極性が逆になっていると考えられる(−の増幅をしないため)。
・ 熱伝対は,アルメル−クロメルで最大1,300℃程度,銅−コンスタンタンで最大400℃程度まで測定可能で,そのときの出力電圧は0℃でそれぞれ50mVと20mV程度である。したがって,低い温度では極端に電圧が低く,正確な温度を測定するのは難しい。
(参考文献等:OPアンプの基礎http://markun.cs.shinshu-u.ac.jp/learn/OPamp/invop.html)