1 小学校の実践事例

 

実践事例T B(物質とエネルギー)

第4学年「電気のはたらき」

 

(1) 研究のねらい

  この単元の基礎的・基本的事項は『小学校学習指導要領解説−理科編−』に,次のとおり示されている。

(3) 乾電池や光電池に豆電球やモーターなどをつなぎ,乾電池や光電池の働きを調べ,電気の働きについての考えをもつようにする。

 ア 乾電池の数やつなぎ方を変えると,豆電球の明るさやモーターの回り方が変わること。

 イ 光電池を使ってモーターを回すことなどができること。

  また,基礎的・基本的事項を獲得するために,次の活動を行う必要があると示されている。

・ 乾電池の数やつなぎ方を変えて豆電球を点灯したり,モーターを回したりして,豆電球の明るさやモーターの回り方の変化を調べ,回路を流れる電気の働きをとらえる。

・ 光電池をモーターなどにつなぎ,光電池に当てる光の強さを変えて,モーターの回り方などの変化を調べ,その回路を流れる電気の働きをとらえるようにする。

  これらの活動を通して,回路を流れる電流の強さと豆電球の明るさやモーターの回り方などを関係付けてとらえたり,光の強さと光電池の電流の強さを関係付けてとらえたりして,電気の働きについての見方や考え方をもつようにすることがねらいである。さらには,乾電池や光電池を使ったものづくりを通して,電気の働きに興味・関心をもって追究する態度を育てることもねらいとなっている。

  そこで,ねらいを達成するためには,乾電池の数を1個から2個に増やして豆電球を点灯させたり,モーターを回したりすることによって,明るさや回転数が変わるという事象に出会わせることが必要である。さらには,そのような違いが生じた原因を調べ,つなぎ方によって違いが生じたということを発見するように単元を構成する必要がある。

  一般に使われているプーリーカーの教材では,乾電池2個の直列つなぎにするとモーターの回転数は上がる。しかしながら,スリップ等が起きるため,モーターの回転がうまくタイヤに伝わらず,速さの違いがはっきりとは分からない。

  そこで,乾電池2個を直列につなぐと格段に速くなる教材を開発し,市販の教材を使った場合と比較検討したい。

(2) 研究の実際

 ア 観察,実験の問題点

   一般的に行われているプーリーカーを使った実践では,児童が簡単に直列つなぎにしてしまい,乾電池が増えたから車が速くなったという認識になり,つなぎ方の違いに目を向けさせることができない。また,直列つなぎと並列つなぎの違いに気付いても,直列つなぎは,モーターの回転数は増すがタイヤがスリップしてしまい,思ったほど速くならない。

   そこで,昨年度の実践結果から,問題点を明確にすることにした。

 

過程

主 な 学 習 活 動

○教師の働き掛けと児童の反応

◇児童の気付きや考え

1 めあてをつかむ。

○ 前時の学習を振り返り,児童の「自動車をもっと速く走らせたい。」という思いからめあてを設定させる。

 

2 自分なりの予想を立てる。

3 各自,実験する。

 ・ 電池1個の場合

 ・ 直列つなぎ

 ・ 並列つなぎ

○ 電池を2個つなぐことと,そのつなぎ方にも目を向けさせる。

○ 電池を2個使って,自由に配線させる。

○ 様々な実験の中から,直列つなぎのもの(速く走るもの)と並列つなぎのもの(速さの変わらないもの)を選び,走り比べさせてみる活動から,配線の違いに気付かせる。

 

 

4 実験を通して,気付いたことを発表する。

 

 

 

 

 

 

5 それぞれを配線図に表し,直列つなぎ,並列つなぎを知る。

 

6 実験結果をまとめる。

7 結果から分かったことをまとめる。

○ 直列つなぎのものと並列つなぎのものの比較ができていない児童のために再度実験をさせる。

◇ 電池を2個にしたら,少し速く走ったよ。

◇ 電池を2個にしても,スリップしてあまり速くならなかったよ。

◇ 電池のつなぎかたも工夫しないと速くならなかったよ。

○ 児童の発表に使った図を使って,実験結果をまとめる。

 

○ 学習の流れがしっかり分かるように,ノートの整理をさせる。

 実践の結果から明らかになった問題点は次のとおりである。

 ○ 児童は簡単に直列つなぎを行い,つなぎ方に意識がいかない。

 ○ 電池の数を変えたときに車体が重くなり,条件の整わない実験になってしまう。

 ○ プーリーカーでは,電池2個を直列つなぎにしたときスリップが起き,速さの違いがはっきりしない。

 

イ 観察,実験のポイント,新たに開発した教材

  タイヤがスリップしないようにするために,モーターの回転数の上昇が車を動かす力に直接つながるように,モーターにプロペラを取り付け,プロペラの起こす風の力で動くプロペラカーを教材として活用する。

  そこで,プーリーカーにモーターを載せる台を取り付け,そこにモーターを置きプロペラを取り付けることができるようにする。

ウ 実証授業の流れ

過程

主 な 学 習 活 動

○教師の働き掛けと児童の反応

◇児童の気付きや考え

1 めあてをつかむ。

○ 前時の学習を振り返り,児童の「プロペラカーをもっと速く走らせたい。」という思いから,めあてを設定させる。

 

2 自分なりの予想をたてる。

3 教師実験を見る。

○ 電池のつなぎ方にも目を向けさせる。

○ 問題意識を高めるために,教師が,電池2個を 並列につないだプロペラカーを走らせる。

◇ アレ?速くならないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4 各自,実験する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


5 実験を通して,気付いたことを発表する。

○ 速くなったものと,そうでないものを並べて置き,違いを比較する。

○ モーターと乾電池の動くモデルを黒板にり,モデルを動かしながらつなぎ方を調べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


※ (T)も(U)も電池を導線に沿って動かすと同じ。

 

5 それぞれを配線図にし,直列つなぎ,並列つなぎを知る。

○ 電池を2個使って,自由に配線させる。

○ 様々な実験の中から,直列つなぎのもの(速く走るもの)と並列つなぎのもの(速さの変わらないもの)を選んで,走り比べさせてみる活動から配線の違いに気付かせる。

 

 

 

 

 

 

 

○ うまく調べることができない児童も違いを理解できるようにするために,実物と図に表した物の二つを示して説明させる。

◇ 電池を2個にしたら,速く走ったよ。

◇ 電池を2個にしたら,プロペラの風がすごく強くなって,速く走ったよ。

◇ 電池を2個にするだけではなくて,電池のつなぎかたを工夫したら速くなったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○ 直列つなぎと並列つなぎの違いを確かにとらえさせるために,まとめが終わった後,再度確認の実験をさせる。

6 実験結果をまとめる。

7 結果から分かったことをまとめる。

○ 学習の流れがしっかり分かるようにまとめさせて,学習を振り返らせる。

 エ 結果と考察

 ・ 児童は乾電池の数を増やすと速くなると考えているので,その考えに揺さぶりを掛ける並列つなぎの事象提示は,児童の学習意欲を高めるのに有効であった。

 ・ プロペラカーを使って実践をすると,乾電池2個の並列つなぎと乾電池2個の直列つなぎの速さの違いを明確にとらえることができた。その結果,つなぎ方の違いをとらえることができた。

 ・ 速さの違いが明確に分かることで,その原因を探る活動が生まれ,原因と結果の関係付けができるようになったことが分かる。

(3) 実証授業の成果と課題

  今回は,電流量が変わることで,モーターの回転数が上昇し,それが直接に車の速さに影響するプロペラカーを使い学習を行った。その結果,学習のねらいにある,回路を流れる電流の強さと働きの関係をとらえることができた。成果と課題を箇条書きで示すと,次のようになる。

 <成果>

 ・ 小学校の学習においては,原因と結果の間にあまり多くの要因が関係しないような教材を開発することが重要である。

 ・ 事象の変化をとらえることができると,児童はその理由を探ろうとして探究活動を行い,きまりを見いだすことができる。

 <課題>

 ・ 今回は,市販の教材を改良して実践を行った。そのため,児童は簡単に乾電池を直列つなぎにすることができるので,乾電池2個の並列つなぎの教師実験を行い,観察させた。したがって,児童が簡単に直列つなぎにすることができずに困るような場面設定を行う必要がある。

(指宿市立今和泉小学校  池亀 洋一)