平成16年度 小学校基礎理科講座【実践研究講座】研究報告書

 

                            鹿児島大学教育学部附属小学校

                            教  諭   平   千 力

 

1 単元名     第4学年「月と星」

 

2 研究の要約

 自然のきまりを追究し続ける理科学習を展開するためには,子どもたちの思考の流れに

沿った学習内容が必要である。その学習内容の中で4年生C区分単元「月と星」において

時間・空間概念の育成にスポットを当てた研究である。

 

3 研究のねらい

 4年生単元「月と星」の学習において,月の満ち欠けの学習内容が付加できる可能性を

探る。

 

4 研究の内容と方法

(1) 理科学習を進めていく上で,必要な資質・能力の発達特性を明らかにする。

(2) 各学年C区分の目標分析と時間・空間概念の関係を探る。

(3) 4年生単元「月と星」における実践結果

(4) 「月と星」の学習において月の満ち欠けの学習内容が付加できる可能性

 

5 研究の実際

 (1) 理科学習を進めていく上で,必要な資質・能力の発達特性を明らかにする

  ア 理科とは

   ○ 学校教育法18

    六 日常生活における自然事象を科学的に観察し,処理する能力を養うこと。

   ○ 現在の学習指導要領

 自然に親しみ,見通しをもって観察,実験を行い,問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を図り,科学的な見方や考え方を養う。

                    

○ つまり,資質・能力をつけさせるために内容がある。

○ 自然から入って,科学をつくる。科学から入るのではない。

○ 子どもが自ら知をつくる。しかも更新可能の知をつくる。

 

  イ 資質・能力の発達特性

   

 (2) 各学年C区分の目標分析と時間・空間概念の関係を探る。

  ア 小学校で学習するC区分の単元

  

  イ 時間・空間概念 

    ものは時間とともに変化したり,空間の中における位置が変化したりする。

    

  ウ C区分の各学年の目標と時間・空間概念の観点から想定できる学習内容の付加

                         

3学年

 【付加できる学習内容】

 日陰の位置の変化や,日なたと日陰の様子を調べ,太陽と地面の様子との関係についての考えをもつようにする。

ア 日陰は太陽の光を遮るとでき,日陰の位置は太陽の動きによって変わること。

イ 地面は暖められ,日なたと日陰では地面の暖かさや湿り気に違いがあること

 

・ 陰の長さと太陽の高さとの関係

 

 

4学年

 月や星を観察し,月の位置と星の明るさや色及び位置を調べ,月や星の特徴や動きについての考えをもつようにする。

ア 月は絶えず動いていること。

イ 空には,明るさや色の違う星があること。

ウ 星の集まりは,1日のうちでも時刻によって,並び方は変わらないが,位置が変わること。

 

 水が水蒸気や氷になる様子を観察し,温度と水の変化との関係などを調べ,水の状態変化についての考えをもつようにする。

ア 水は,温度によって水蒸気に変わること。

イ 水は水面や地面などから蒸発し,水蒸気になって空気中に含まれるとともに,結露して再び水になって現れることがあること。

 

・ 月の満ち欠け

・ 月,太陽,地球の位置関係

 

 

・ 水はいろいろなものから蒸発している。(木・手・色水など)

 

 

 

   5学年

 1日の天気の様子を観測したり,映像などの情報を活用したりして,天気の変わり方を調べ,天気の変化の仕方についての考えをもつようにする。

ア 天気によって1日の気温の変化の仕方に違いがあること。

イ 天気の変化は,映像などの気象情報を用いて予想できること。

 

 地面を流れる水や川の様子を観察し,流れる水の速さや量による働きの違いを調べ,流れる水の働きと土地の変化の関係についての考えをもつようにする。

ア 流れる水には,土地を削ったり,石や土などを流したり積もらせたりする働きがあること。

イ 雨の降り方によって,流れる水の速さや水の量が変わり,増水により土地の様子が大きく変化する場合があること。

 

・ 天気と気圧,湿度との関係

 

 

・ 土地の構成物

 

・ 水の働きによって土地は変化し,地層がつくられる。

 

 

 

   6学年

 土地やその中に含まれる物を観察し,土地のつくりや土地のでき方を調べ,土地のつくりと変化について考えをもつようにする。

ア 土地は,礫,砂,粘土,火山灰及び岩石からできており,層をつくって広がっているものがあること。

イ 地層は,流れる水の働きや火山の噴火によってでき,化石が含まれているものがあること。

ウ 土地は,火山の噴火によって変化すること。

エ 土地は,地震によって変化すること。

 

・ 地層の構成物や地層の幅から,その地層ができた年代やできた期間を推論する。

 

 

 

※ 時間・空間概念の観点から

 学習指導要領におかれている目標だけを学習しただけでは時間・空間概念は育たな

い。例えば,6年生の「土地のつくり」の学習では,目の前の土地は,火山の働きで

できた土地だということが分かっても子どもたちに感動はない。子どもたちが感動す

るのは,「目の前の土地は火山の働きでできたものであるが,実は,2万年以上前に

できたんだ」ということが実感できたとき感動するのである。学習指導要領に示され

ている学習内容から時間・空間概念に迫るところまでもっていきたい。

 

 (3) 4年生単元「月と星」の実践

※ 「月と星」の単元の中で,月の学習にスポットを当ててみる。

  ア 学習指導要領に示されている学習内容

 月や星を観察し,月の位置と星の明るさや色及び位置を調べ,月や星の特徴や 動きについての考えをもつようにする。

○ 月は絶えず動いていること。

  イ 学習指導要領での限定条件

   ・ 三日月や満月などの中から二つの月を取り上げ,月の特徴をとらえる。

   ・ 太陽と月の位置や月の形の見え方との関係にはふれない。

  ウ 付加する内容

   ・ 月の形は,太陽の光と地球,月の位置によって変わる。

  エ 根拠

・ 子どもたちは,月の動きについて約1か月継続観察をすると,月の動きにつ

 いては何の疑問を抱くこともなく「東から西へ動いている」ことを理解する。

  子どもたちは,家庭学習において事実を確実につかみ,月の動きについての

 規則性を見つけることができる。そして,子どもたちが疑問に思うのは,月の

 形であり,見える時刻がずれていることである。

  オ 問題点

・ 4年生の子どもたちは二次元の世界で物を見ており,三次元の世界へ視点を

 転換するのは難しいのではないか。

  カ 実際

   

  キ 有効であった観察

○ モデル実験

@ 理科室の前方に,1000Wの光源をおいて(太陽),中央に地球儀(月)をおく。

 それを動きながら見て回る(地球)。

 最初は,月の形が変わったと喜んでいたが,そのうち子どもたちは,次のよう

な発見をしていく。

・ 同じ形をしている月は,見える場所が必ず一緒だ。

・ 太陽の光が月を照らして,それが反射して月の形が変わって見える。

・ 月はいろいろな形をしているのではなく,いろいろな形に見えるんだ。

・ 地球から見ると,太陽に光が当たっていない月の部分は黒くなって見えない。

・ 教室の一番後ろに来ると何も見えなくなった。だから新月になるんだ。 

・ 月が少しずつ動いて,新月,半月,三日月などに変わるんだ

・ 地球が動いているんだ。

 月の形の見え方を発見した児童は,とても感動していた。ただ,動いている自

分が地球で,月は止まっているのだが,そのことについての疑問は生まれてこな

い。

 動いているのは地球か,月か,太陽かについてもさほど問題にはしていなかっ

た。しかし,このモデル実験を通して,子どもたちが大きな問題にしたのは次の

ようなことである。

・ 太陽と月の間に地球が入ると,満月に見えないといけないはずなのに,新月になってしまう。

 この疑問を解決したのは,次の二つであった。

・ 子どもからの発見・・・自分が少ししゃがむと太陽は満月に見えるよ。

・ 教師の提案・・・・・・実際の大きさをそのまま小さくした。

                  (月・地球・太陽の縮尺)

○ 月,地球,太陽の縮尺

月の大きさ・・・・ 約 1cm(パチンコ玉の大きさ)

地球の大きさ・・・ 約 cm(ゴルフボールの大きさ)

太陽の大きさ・・・ 約 4m

地球と月の距離・・ 約 120cm

地球と太陽の距離・   500m(附属小〜ダイエー)

※ この実験を行ったことにより,子どもたちは一瞬にして宇宙の壮大さに気付

 いた。

  子どもたちから出てきたつぶやきは次のようなものであった。

・ ありえない(太陽が出てきた瞬間)。

・ 太陽はこんな大きいから光がどこにでも当たるし,月と太陽の間に地球が

 入っても関係ないんだ。

 (4) 「月と星」の学習において月の満ち欠けの学習内容が付加できる可能性

・ 子どもたちは,月の動きについて約1か月継続観察をすると,月の動きについて

 は何の疑問を抱くこともなく「東から西へ動いている」ことを理解する。

・ 子どもたちは,家庭学習において事実を確実につかみ規則性を見いだすことがで

 きる。子どもたちが疑問に思うのは,月の形であり,見える時刻がずれていること

 である。

・ 子どもたちは,二次元から三次元への視点移動は難しいが,モデル実験をするこ

 とにより可能になる。

・ 地球,月,太陽の位置関係については,実際の距離をそのまま縮小し,子どもた

 ちが考えれる範囲のものにすることで子どもたちも実際のものに置き換えて考える

 ことができる。

・ 子どもたちは,天動説,地動説に関してはさほど問題にしない。それよりも,月

 の満ち欠けのメカニズムを発見できたことに感動を覚える。

・ 月の動きだけの学習内容では,調べたことを確認できることにはなるが,さほど

 授業においての感動はない。子どもたちが本当に疑問に思っていることは,「月の

 形の違いはなぜ起きるのか」であったので,その疑問が解決できたときには本当に

 感動であり,実感して分かった姿がそこにある。

・ 資質・能力の観点からいっても,モデル実験から得た事実から,実際の月と地球

 と太陽を関係付けて考えるという,4年生でも可能な能力で十分である。

 

 以上のようなことから,月の動きの観察を約1か月間行い,その後,分かったことや疑問に思ったことを整理し,月の形の変化についてモデル実験と,実際の距離や大きさを縮小するモデルを提示するというような順序を経ていけば,月の満ち欠けの学習内容は4年生に付加できる可能性がある。