平成16年度 小学校基礎理科講座【実践研究講座】研究報告書

                                  鹿児島市立清和小学校

                                  教 諭  鮫島 郁美

 

1 単元名     第4学年「もののかさと力」

 

2 研究のねらい

 本単元について,「小学校学習指導要領解説―理科編―」には次のように書かれている。

(1) 閉じこめた空気及び水に力を加え,そのかさや,圧し返す力の変化を調べ,空気及び水の性質についての考えをもつようにする。

ア 閉じこめた空気を押すと,かさは小さくなるが,圧し返す力は大きくなること。

イ 閉じこめた空気は圧し縮められるが,水は圧し縮められないこと。

 基礎的・基本的事項をみてみると,「空気と水の性質とその違い」についての理解であると

いうことが分かる。

 また,この「空気と水の性質」を理解する中で,それぞれのかさや圧し返す力の変化によっ

て起こる現象をそれぞれの性質と関係付けて追究する能力を育てることや単元を通して興味・

関心をもって追究する態度を育てることも,ねらいとされている。

 その中で,特に空気の性質をとらえる場面では,「目に見えない空気のかさや性質をどのよ

うにとらえさせるか」という点が,指導上のポイントとなる。児童の実態によると,これまで

の生活経験の中で,身の回りに空気はあふれているがその存在や空気にもかさがあるというこ

とについて,実感できている児童は少ない。

 そこで,今回は空気の性質を調べる実験に的を絞り,児童が空気をどのようにとらえている

かということや授業を進める中で,児童の空気に対する考え方がどのように変化していくかに

ついて研究していく。そして,児童に空気の性質を理解させるためには,どのような視点をも

たせて実験を行わせるとよいのか,そのための有効な働き掛けはどのようなものかを探るため

に,本研究に取り組むことにした。

 

3 研究の実際

(1) 観察,実験の問題点

 空気の性質を調べる実験では,空気そのものや空気が圧し縮められたり,圧し返したりす

る様子を実際に目で見て確かめることができない。そのために,実験を行っても作業の楽し

さしか印象に残らないという場合が多いと考えられる。

 しかし,本単元では実験を行って得た事実から,その様子や性質について推論しなくては

ならない。そのためには実験を行う前に,これから行う実験は何を確かめるために行うもの

なのか,明確な目的意識をもたせなければならない。

(2) 観察,実験のポイント

 前述のとおり,児童が実験を行う上でその内容についてしっかりと理解し,明確な目的意

識をもつことができるようにしなくてはならない。そのため予想を立てる段階でのどのよう

な働き掛け(発問)をすればよいのかということをテーマにし,観察,実験の工夫や指導法

の工夫に取り組んだ。

(3) 授業前の空気についてのイメージ

 あなたが「空気」について,知っていることや思い浮かぶことは,どんなことですか(複数回答)。

項   目

人 数

項   目

人 数

 息をするために必要

 目に見えない

 形がない

 28

 14

 11

 あるけどない

 地球にたくさんある

 酸素

 3人

 3人

 1人

(4) 単元構成

主 な 学 習 活 動

1次

 

 空気を閉じこめよう

 空気を入れたポリ袋やプラスチックの入れ物などを圧して,手ごたえを感じる。

 球が遠くに飛ぶように,工夫して空気でっぽうをつくり,玉を飛ばしてみる。

 球が飛ぶときの,つつの中の空気のかさや後玉の位置を観察し,押し棒を押すと,つつの中の空気のかさが小さくなって,玉が飛び出すことをまとめる。

2次

 

 空気はおしちぢめられるのか

 前時までの学習から,空気は圧し縮められるかどうかに問題意識をもち,注射器に閉じこめた空気を圧して,かさと手ごたえがどうなるか調べる。

 空気は,圧し縮められてかさが小さくなるほど,圧し返す力が大きくなること,この力で空気でっぽうの前玉が飛び出すことをまとめる。

3次

 

 水もおしちぢめられるのか

 水も空気のように圧し込められるとかさが小さくなるかに問題意識をもち,注射器に閉じこめた水を圧して,かさや手ごたえがどうなるかを調べ,空気と比べる。

 空気と違って,水は圧し縮められないことをまとめる。

 学習の整理を行い,空気と水の性質の違いをまとめる。

(5) 実証授業の流れ

過程

主な学習活動

◎ 効果的と思われる問い掛け

◇ 教師の働き掛けと児童の反応

○ 児童の気付きや考え

空気を閉じこめよう

 

 ボールを押してへこむとき,中の空気はどうなっているか。

 

◎ どうなっていると思いますか。

◎ そう思ったわけは何ですか。

 

・ 空気を入れたポリ袋やプラスチックの入れ物などを圧して,手ごたえを感じる。

◇ ビニル袋に空気を閉じこめる,風船をふくらませる,ボールを押して手ごたえを感じるなど,空気の存在を直接感じる体験を十分にできるようにする。

◇ イメージ図を描かせ,“目に見えないが確実にある”空気の存在について意識させる。(目には見えないが,空気は確かにあるということを確認し,何かの形や矢印で表すように指示した。)

@ 最初は下に行って中で回る。

A 押した方の反対側に集まる。

B どこからかぬけている。

C 中の空気の形が変わる。

 

 空気でっぽうの球をよく飛ばすためには何が大事か。

 

 

◎ 何を知りたいの。

◎ どうすれば分かるのかな。

 

・ 空気でっぽうで遊びながら,後玉が前玉にぶつかる前に,玉が飛び出していることに着目する。

 

・ 球が遠くに飛ぶときと飛ばないときの違いについて,いろいろな飛ばし方を試してみる。

 

 ・ 筒の向き(斜め上に向ける。)

 ・ 押し棒を押す力の強さ

 ・ 空気の量

 

◇ 条件制御のポイントを押さえ,比較しながら,よく飛ぶための条件を探すことができるようにする。

◇ 市販のビニル管とフォームポリエチレン製の玉を使用したが,やり方によっては強く(素早く)押し棒を押すと,球が遠くに飛んだため,何度やっても確実に遠くに飛ばす方法を考えさせる。

 

 空気でっぽうの玉が飛び出すとき,筒の中の空気はどうなっているか。

 

◎ どうなると思う。

◎ その結果,分かることは何かな。

 

・ 空気でっぽうの後玉を少し押し,すぐには飛ばないことを確かめ,その時,中の空気はどうなっているかを考える。

・ ゆっくりと押し棒を押しながら,球が飛ぶまでの前玉や筒の中の様子を観察する。

 

○ 最初は空気はあまり入っていないが,押し棒を押すと空気が一杯になって飛び出す。

○ 前の方に集まって,玉を押す。

○ 押し棒を押すと,ゆるゆるだった空気が,ぎゅうぎゅうになって飛び出す。

(ここで煙を使って中の空気の様子を確かめたいという児童がいたため,筒の中に線香の煙を閉じこめて実験を行ったが,空気の縮む様子はあまり分からなかった。)

空気は圧し縮められるのか

 

 注射器に閉じこめた空気を圧すと,どうなるか。

 

 

◎ どのようになると思う。

◎ そのように考えたわけは何かな。

 ・ 注射器で空気を圧し縮め,手応えや元に戻る様子を確かめる。

◎ このようになったのはなぜかな。

◎ そこからどんなきまりが分かるのかな。

 ・ 空気は,圧し縮められてかさが小さくなるほど,圧し返す力が大きくなることと,この力で,空気でっぽうの前玉がとび出すことをまとめる。

 

○ 縮まって,手を離すと少しだけ戻る。

○ 縮まって,手を離すと元に戻る。

○ 縮まって,手を離すと勢いよく跳ね上がる。(もとのかさよりも大きくなる)

○ 縮まって,元には戻らない。

○ 評価

・ 閉じこめた空気を圧し縮めると,かさは小さくなるが,圧し返す力は大きくなることを

 理解することができたか。

・ 空気は圧し縮められるほど圧し返す力が強くなることと,空気でっぽうの前玉がとぶこ

 とを関係付けて考えることができたか。

(6) 実証授業の成果と課題

 実験に取り組むに当たっての視点のもたせ方ということで実証授業を実施した。その結果,

以下のような成果と課題が明らかになった。

ア 成果

@ 授業の中で毎回,イメージ図を描かせた。そのことによって,目には見えないが,空

 気は存在していて,力を加えることによってかさが変化することをとらえさせることが

 できた。

A 実験を行う前に根拠を伴う予想を立てさせた。そのことによって,明確な目的意識を

 もって実験を行うことができた。

イ 課題

@ 児童一人一人にこだわりを強くもたせて実験を行ったため,結果の事実をなかなか受

 け入れることができない児童もいた。また,実験中やまとめの段階での情報交換の中で,

 他の考えも受け入れながら考える態度も育てていきたい。

A 空気でっぽうの前玉は,空気の流れが起こって飛び出すという考えを持った児童に対

 して,反証する手だてがなかなか見つからなかった。今後も教材研究を続け,何か良い

 手だてを見いだせるようにしたい。

 

 

【課題解決例】

◎ 空気でっぽうの前玉は,空気の流れが起こって飛び出すという考えを持った児童に対して,

 反証する手だて

・ 閉じ込めた空気が圧し縮められ,元に戻ろうとする力で,空気でっぽうの前玉が飛ぶこと

 を納得させるためには,圧し縮められた空気の中で物が圧し縮められる様子を観察させるこ

 とが有効である。そこで,次の実験を活用するとよい。

 

1 ディスポーザブル注射器の中に発泡スチロールの玉を入れる。

   

 

2 ゆっくりピストンを圧す。圧し縮められた空気が発泡スチロールの玉を四方八方から圧し

 縮める様子を観察する。

(空気に圧し縮められる発泡スチロールの玉の様子が,発泡スチロールのシワや大きさの

変化として観察できる。)

 

 

3 ピストンを元に戻すと,圧し縮められた発泡スチロールも元の大きさに戻る。