平成16年度 小学校基礎理科講座【実践研究講座】研究報告書

輝北町立市成小学校

教 諭 緒方 一行

 

1 単元名     第5学年「流れる水のはたらき」

 

2 研究のねらい

 本単元はC領域の内容で,長大な時間と広大な空間概念を育成することが概念形成の目標である。対象となる自然は大きすぎて,その変化をとらえにくいために,児童が直接確かめることのできるような観察,実験の工夫が必要である。

 この単元について,「小学校学習指導要領解説−理科編―」には次のように書かれている。

 


(2) 地面を流れる水や川の様子を観察し,流れる水の速さや量による働きの違いを調べ,流れる水の働きと土地の変化の関係についての考えをもつようにする。

ア 流れる水には,土地を削ったり,石や土などを流したり積もらせたりする働きがあること。

イ 雨の降り方によって,流れる水の速さや水の量が変わり,増水により土地の様子が大きく変化する場合があること。

 

 このことから,基礎的・基本的事項は「浸食作用,運搬作用,堆積作用」と「水量の変化による力の増大」についての理解であるということが分かる。

また,それらを理解させるための具体的な活動は次のような内容である。

「人工の流れを作って水を流しても確かめることができる。」

「人工の流れを作って実験した結果と関係付けて,…」

「人工の流れを作り,流れる水の速さや量を変えることで,…」

 本単元の学習は,実際の川等で学習することが望ましいが,現実としては地域の実態で影響を受ける。そこで,モデル実験等を効果的に行うことが児童の理解を深めることになるものとして,上記のように表現されたものであると考える。また,モデル実験等により,児童の学習内容の理解が高まると,川の見学の際にも児童は問題意識をもち,意欲的に観察を行うことができるようになる。これらのことから,効果的なモデル実験を行う必要があると考え工夫・改善を行うことにした。

 本研究においては,流れる水の働きを追究するためにはどのようなモデル実験であればよいかを明らかにする。

 

3 研究の実際

 (1) 観察,実験の問題点

   流れる水の働きでは,川が大地を削る様子を実際に児童が見ることはできないので,モデル実験を行う。しかし,実際に起こっている現象とモデル実験との差が大きいため,児童は実験に対しての意欲を十分にもつことができないことがある。また,流水実験中も実験の目的が分かっていないと興味の対象は,流れる水の働きではなく泥遊びの楽しさに移ってしまうことがある。そこで,児童が課題意識を明確にもち,児童を引き付けるような実験を工夫する必要がある。

(2) 観察,実験のポイント

  児童が課題意識をもつ実験にするためには,意欲的に実験に参加することを主眼において,実験の工夫・改善に取り組んだ。

 ア 流水実験機を使っての実験

@       川沿いに児童が木を植えるという設定で授業を始め,割りばしに木の絵をはり付けたものを準備する。

A     植える場所は教師が幾つか準備し,児童に選ばせながら川沿いに植え(刺す)させる。 準備する場所は,カーブの内側と外側,まっすぐな流れの両側にし,木は川沿いぎりぎりに植えさせる。

B 水を流しながら観察させる。

C 水を止めて,川底や残りの土地の様子を観察させる。

※ 水が流れている時よりも水がない方が,削られた様子や堆積した様子がはっきりする。

D 次の時間に再度,実験を行い,今度は自分たちが安全だと思うところに木を植えさせる。そして,水を流し,再度観察させる。

 ※ 2回目の実験であるため,安全な場所は分かっているはずである。安全な場所に植えることで,多くのことに着目することができる。

E 水量を多くすると,流れる水の働きがどのように変化するかを観察させる。

 イ 石の大きさと形の変化について

 @ 川の石が河口に近づくほど丸く,小さくなっていることを確認させる。

  ※ 教科書の写真・資料などを使うことで容易にできる。

 A びんに小さく刻んだ発泡セメント(3,4個)と水(びんの7,8分目ほど)を入れて,ふたをする。

 B 時間を決めて(3分間,8分間,13分間),びんを振らせる。

 C びんから出させ,変化があったところを観察させる。

 ウ 実証授業

 実証授業においては,

 @ 「自分の木を植える」流水実験(試し,決まりを発見して,水量を変えて)

 A 川の石の大きさの変化の実験

 B 二つの実験の結果を踏まえての現地見学

 という流れで単元を構成した。

 

過程

主な学習活動

  ◇ 教師の働き掛けと児童の反応

  ○ 児童の気づきや考え

 

 流

 水

 実

 験 

 

 

 

 

 

 

○ 木を植える場所を考える。

 

どこに植えれば安全か考えよう。

◇ 興味をもたせ,今後の学習への意欲をわかせ る。

◇ 木を植える場所については,教師が計画を立 て,児童に選ばせる。

○ 何をするのか最初は分からなかったけど,面 白そうだなあと思った。

○ 木を植え,水を流す(流水実験 @)

 

・ 自分の木の土地を観察する。

・ 流れる水の働きについて観察

する。

◇ 児童の気付きを全体のものにするために,再 度発言させたり,教師が取り上げたりする。

◇ 水の流れを止めてから,川底を詳しく観察す

 る。

○ どんどん削られていった。

○ 木が川から遠くなった。

○ カーブの所で曲がりきれなくて(川の水)

ぶつかっている。

 

○ 木を安全なところに植え,水

を流す(流水実験A)。

安全なところに木を植えよう。

◇ 前回の実験の結果を基に,安全と思う場所に 植えさせる。

○ 小石が流れている。

○ 速すぎて見えない。

○ ゆっくりのところを見ればよい。

○ 速さが違う。

○ 川の水量が多くなったらどう なるか調べる。

・ 水量を多くする。

・ 角度を急にする。

◇ 水量が多くなる場合や水の勢いが激しくなる場合を考えさせ,それに応じた状況を設定す

る。

○ いっぱい水が流れたら,壊れるよ。

○ たくさんの水が壁にぶつかったら,たくさん

 壊れる。

  川一 の時 石間 の 変形 化の

○ 川の石の形の変化を調べる。

 

 石の形は,どうして違うのだろ

う。

 

○ びんを振る実験

◇ 体験を伴わせることで,自然の力の大きいこ と,時間の長いことを実感させる。

○ 疲れた。やわらかい石で,これだけ疲れたの に硬い石だったら大変だろう。

○ 大きい石が小さくなるなんてものすごい。

○ どれだけ時間がかかるのだろう。

  実  際二 の時 川間 の  観  察

○ 川の観察に行く。

 

 本当の川は実験のようになっているか調べよう。

 

・ 実験との共通点,相違点を探

す。

◇ 川に入り,流れの強さや流れる速さの違いを 体感させる。このことよりモデル実験を実際の

 場面と関連させて考えることができる。

○ 川もカーブの内側に石がたまっている。

○ 外側のほうの流れが速い。

○ 外側のほうが深い。

○ コンクリートで固めてある。

一 ま

時 と

間 め

○ 学習のまとめをする。

◇ 流れる水の働きについてまとめる。

エ 児童の考え方の変化

 ○ 流水実験を行う前と後の児童の考え方の変化を調査した。

 ○ 下のような図を提示し,「木を植えても安全なところはどこか」と質問した。

  その結果をまとめたものが下の表である。

 安全だと思った場所

調べた時期

@

外側

A

内側

B

直線部

C

直線部

   

実験前

実験@後

10

実験A後

11

                                  

オ 学習途中での評価(評価の方法は主に2種類で行った。)

@ ノートチェック(授業後の感想・授業の記録) 

毎時間,1分程度で授業の感想を書かせている。「面白かった」という単純なものもあれば「どうして,〜になるのか」というような児童の内面をみることのできるものもあった。また,前述の「どこが安全だと思うか」という調査もノートに書かせて,児童自身が考えの変容を確認できるようにした。それを,教師が集計すれば実態調査の資料として活用できると考えたからである。ノートチェックから,児童の認識が浅かったり,間違っていたりした場合には,次の実験中にその児童とできるだけ多く接し,「実験でどうなってる?」,「この前の実験と比べるとどう?」などと質問をし,考える機会を増やした。

A 児童の様子の観察記録(発言・活動の記録)

授業中の活動で特徴的なものを記録した。しかし,授業中で多くを書くことはできなかったので,授業後に児童の様子を記録した。「書く」ことで教師自身の児童への認識を再確認できるので,次の授業のときに意識的に声をかけたり,発言を取り上げたりすることができ,効果的だった。

また,学期末の評価の際にも活用できると考えられる。

カ 結果と考察

 ・ 「自分」の木を植えることで,流れによって土地が削られることに対して,強い興味をもち,実験の様子を熱心に見つめ続けていたので,安全な場所・危険な場所という区別を児童自ら作り出すことができた。

 ・ 流水実験を2度することで,児童は安全な場所を選ぶことができた。このことから,土地が削られる場所,土や砂がたまる場所などについての理解ができていることを確かめられた。1回目の実験を行う前では,流水による「削る」,「積もらせる」働きについて,知っていた児童は1名であり,木を植える場所は,多くの児童が「なんとなく」という感覚で決めていた。

しかし,2回目の実験では,安全な場所に木を植える子がほとんどになり,理由についても流水の働きについて十分理解した上での選択であ

った。

 ・ 川原の石が丸くなる理由について,知識としては知っている児童もいたが,体験をすることで,石が丸くなることについて深く理解できたよ

うである。体験を伴う活動は,児童に実感させるために,より良い効果を与える。また,自然の力の偉大さと地球上の大地を形成する際の長大

な時間についての驚きや畏敬の念をもたせることができた。

・ 二つの実験で児童の意欲を十分に高めることができたので,川への現地見学も十分な成果を上げることができた。児童は川を見学する際に,

常にモデル実験と比べながら見学していた。多くの児童は,モデル実験で利用した小川を大きくしたものとして本物の川をとらえていたようで

ある。

(3) 実証授業の成果と課題 

   効果的なモデル実験の検証ということで実証授業を実施したが,次のような,成果と課題が明らかになった。

ア 成果

・ 児童が意欲的に学習を進めていくために,効果的な事象提示の重要性が再確認された。

・ C領域においては,実際のスケールで実験することはできないので,モデル実験が有効である。

・ モデル実験が児童にとって興味深いものであればあるほど,単元終末の現地見学も課題意識をもって参加しやすい。

・ モデル実験では,どのような事象をモデル化しているのかをしっかり理解させることが大切である。

イ 課題

・ モデル実験,ビデオ(写真)教材,実際の川などを学習の材料としたが,児童によってはそれらの学習一つ一つをつなぎ合わせて考えること

ができなかったようである。それぞれ においては理解できても,総合的に考えることができなく混乱していたようである。そのため,シンプ

ルな構造で指導できる方法を開発する必要がある。

・ 本校は校区に川が流れるという自然条件に恵まれているが,すべての学校に当てはまるわけではない。単元終末に川の見学に行けない場合に

おいても,学習を成立させる効果的な方法を研究する必要がある。