平成16年度 小学校基礎理科講座【実践研究講座】研究報告書
菱刈町立菱刈小学校
教 諭 野元 剛二
1 単元名 第5学年「台風と天気の変化」
2 研究のねらい
本単元の学習のねらいは,1学期の「天気と気温の変化」での学習を踏まえて,次の4点である。
(1) 天気の変化の仕方についての見方や考え方をもつようにする。 (2) 日常生活において気象情報を活用しようとする能力や態度を育てる。 (3) 西から東へ変化していくという天気の変化の規則性は,台風の場合は当てはまら ないことを理解する。 (4) 台風がもたらす降雨は,短時間に多量になることをとらえる。 |
7月に実施した理科学習に対する興味・関心についての意識調査では,「理科が好きでない」と答えた子どもの理由で一番多いものは,「自分の生活と関係がない」,「学習しても役に立たない」などである。このことは,「学習したことが日常生活で役に立ち,学習内容が自分の生活につながっていると感じる経験をすることができれば,理科学習への興味・関心を高める原動力と成り得る」ということでもある。
このような観点から本単元のねらいを見直すと,これまでの生活経験等から台風の猛威を実感している5年生の子どもたちにとって,生活に根ざした学習を展開できる単元であり,自然現象を科学的にとらえようとする態度や能力を育てる絶好の機会であると言える。
そこで,本単元においては,どのような学習の展開が,子どもたちにとって「生きて働く力」を培う学習になるのかを探るために,本実践に取り組むことにした。
3 研究の実際
(1) 学習指導上の問題点
ア 台風に関する情報はインターネット上に膨大な量が存在するが,子ども向けに改善された情報は少ない。また,学校によっては,子どもたちが一斉に情報収集できるほどの通信環境は整備されていない。このような状況から,情報は豊富にあるにもかかわらず,調べ学習としてインターネットを活用することは難しい。
イ 台風に起因する雨は,台風本体の雲によるものばかりでなく,台風から遠く離れた 前線に影響を与えて雨を降らすこともある。このように台風の動きと降雨範囲の関係は一定ではなく,「台風の移動にともなって天気が変わる」,「台風一過の晴天に恵まれることが多い」などと言い切るのは無理があると考える。
ウ 本単元の学習により台風に関する知識を習得しても,台風から逃れられるわけでは なく,日常生活に関係の深い単元であるにもかかわらず,役に立ったという実感をもちにくい。
(2) 学習指導上の改善のポイント
ア 日常生活から台風に関する情報を収集し,生活に根ざした学習の展開に努める。
イ 視聴覚資料の活用して,学習への興味・関心を高めるとともに,学習内容の理解を深める手だてとする。
ウ 学習を生かした具体的な防災対策を考えさせ,機会がある度に気象を科学的にとらえるように働き掛ける。また,気象現象を科学的にとらえることができている場面では,そのような態度を身に付け始めたことに気付かせるよう声掛けをする。
(3) 単元構成
次 |
時 間 |
学 習 内 容 |
時 |
1 |
台風による影響 |
・ 自分たちの経験に基づいて,台風の影響をまと めたり,新聞記事やニュース番組から,台風が接 近するとどのようなことが起こるのか情報を集め たりする。 |
1 |
・ 各自の情報をもち寄って,台風接近に伴う影響 について,災害と恵みの両面からまとめる。 |
2 |
||
2 |
台風の動きと天気の変わり方 【 本 時 】 |
・ 台風の動きと通常の雲の動きを比較し,天気は 西から変わるという規則性が台風には通用しない ことを理解する。 ・ 台風の構造の特徴を知り,台風をはじめ,気象 への興味・関心を高める。 |
3 |
3 |
台風による災害の防止 |
・ 台風に関する知識や気象情報を活用して,災害 に備えることの大切さに気付く。 ・ 台風が接近したら,どんな対策をとるか具体的 に考えさせる。 |
4 |
(4) 実証授業の流れ
@ 本時の目標
・ 台風は日本の南で発生し,初めは西の方へ,やがて北や東の方に動くことを理解する。
・ 台風や雲の動きに関する理解を深め,気象への興味・関心を高める。
A 指導にあたって
・ 台風の動きを理解しやすくするとともに,気象への興味・関心を高めるために,視聴覚資料を活用する。
・ 台風に関する発展的な内容についても指導し,次時の学習への意欲を高める。
B 実 際
過 程 |
主な学習活動 |
時 間 |
指導上の留意点・評価 |
|||
つ か む |
1 本時のめあてをつかむ。 |
分 5 |
○ 前時の学習を想起させ,大きな災 害をもたらす台風について,詳しく 調べようとする意欲を高める。 ○ 気象衛星の連続写真を見て,春の 日本付近の雲の動きの様子(西から 東へ動く)と台風の動きの様子を比 べ,それぞれの特徴をつかむ。 ☆ 通常,雲は西から東へ移動し,天 気も西から東へ移り変わることを確 認できたか【評価】。 ○ 天気図への記入という作業内容を 理解させ,作業の効率化を図るため に台風16号は記入済みのものを用意 し参考とさせる。 ☆ 台風の軌跡を線分で結ぶことがで きたか【評価】。 ○ 台風を横から見た図を提示し,台 風の雲の構造を理解しやすくしたい。 ○ 台風の構造は,幅が非常に広く, 縦横比はちょうどCDの厚さと直径 のような関係になることをとらえさ せたい。 ○ 次時は,台風に関する学習をどの のように生かすことが考えられるか を予告する。 |
|||
|
台風はどのように動くのだろうか。 |
|
||||
|
||||||
ふ か め る |
2 台風の動きの特徴をとらえる。 ○ 気象衛星の写真 ○ 平成16年4月の写真の連続表示 ○ 平成16年8月の写真の連続表示 ○ 天気図用紙への記入や台風16号 進路図を参考にして,台風18号の移 動の記録を完成させる。 3 台風の雲について(発展学習) ○ 台風の雲の構造 ○ 回転しながら下から上へ登ってい く雲の集まりであること。 ○ 台風の雲の厚さと広さ ・厚さ・・・10q ・幅・・・・1000q 4 本時の学習についてまとめる。 |
15 |
||||
20 |
||||||
まとめ る |
5 |
|||||
|
台風は南の海上で発生し,初めは西へ,やがて北や東の方に動くことが多く,秋に発生した台風は日本に上陸することが多い。 |
|
||||
|
||||||
|
C 評価
・ 台風が日本の南で発生し,初めは西の方へ移動し,やがて北や東の方に動くことを理解できたか。
・ 台風や雲の動きに関する理解を深め,気象への興味・関心を高めることができたか。
(5) 実証授業の成果と課題
@ 成果
・ 雲の動画を提示し,台風の軌跡を天気図に記入させることにより,子ども一人一人が台風の動きの特徴を効果的にイメージ化できた。
・ 台風の雲が薄い円盤状であることを図示したことにより,台風に対する興味・感心を高めることができた。
・ 台風の東側と西側では風の強さが違うことに触れたことで,台風の進路に興味をもち,台風の東側にあたる場合は,より一層の備えをしようとする態度をもたせることができた。
A 課題
・ 子どもの活動は,台風の軌跡を天気図に記入する簡単な作業しか組み込めなかった。インターネットを活用して情報を収集するには時数が全く足りないと考えたためだが,子どもたちの学習意欲をもっと喚起し,主体的な学習を展開できるような活動や働き掛けは無いか,検討していきたい。
・ 「デジタル台風」(http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/
)のアーカイブは貴重な資料だが,コンピュータによっては正常に表示できない場合があるので,ハード面の整備が必要である。
4 資料
本実践を行うに当たって,下記サイトに掲載されている情報を利用した。
(1) 「デジタル台風」 http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/
・ 1か月分の気象衛星の雲画像が一つの動画ファイルとして保管されている。
(2) 「国土環境株式会社 お天気情報」 http://weather.metocean.co.jp/index.htm
・ 一通りの気象情報が手に入るが,なかでも実況天気図や天気図の週間予想などは他のサイトには見られない貴重な気象情報である。
(3) 「米軍台風警報センター」 https://www.npmoc.navy.mil/jtwc.html
・ 日本の気象庁よりもずいぶん先まで予報を出す。予報の精度が高いということで評判になった。
(4) 「気象庁 日本近海の日別海面水温」
http://www.data.kishou.go.jp/marine/ocean/daily/daily.html
・ 日本近海の海水面の水温が分かる。台風の北上に伴い,勢力の衰えを予想する際の参考資料となる。
(5) 「高知大学気象情報頁」 http://weather.is.kochi-u.ac.jp/
・ 気象衛星の雲画像のほか,様々な気象関係の画像がある。