水のはたらきによる堆積の様子を分かりやすくする教材開発の工夫 〜 第6学年 「大地のつくりと変化」を通して 〜 1 主題設定の理由 平成14年度から平成16年度までの3年間,私は小中学校間における校種間交流で中学校に勤務した。その主な理由は,自分が小学校で教えた子どもたちが,進学した中学校において,どのように成長していくのかを,この目で確かめたいという思いからであった。 中学校で理科を教えていた3年間,授業をすればするほど,早く小学校に帰りたくなった。それは中学校で教えれば教えるほど,「小学校では,このような方法で教えた方が良いのではないか」,「小学校では,この内容まで教えた方がよいのではないか」などと,小学校で指導すべきことが頭に浮かんできたからである。 私は,中学校で理科を教え,中学校の学習内容を把握したことで,小中学校の9年間を見通した教育をすることがたいへん重要であることを実感した。このことから,教師自身が小中学校の9年間の学習内容に系統性をもち,見通しと育てるべき科学的な見方や考え方,概念をもって,指導することが,子どもたちの理科に対する概念形成をより確かなものにできるのではないかと考え,本主題を設定した。 2 研究の仮説 【仮説1】 地層の堆積に対する誤概念の形成は,小学校における堆積実験が原因の一つとなっているのではないか。 【仮説2】 小学校において中学校の学習内容を踏まえた実験を行うことで,地層の堆積に対する誤概念の形成は防げるのではないか。 3 研究の内容 (1) 地層の学習の系統性 (2) 空き瓶を使った堆積実験での授業実践 (3) 中学校の学習内容を踏まえた地層の堆積の自作教具の開発 (4) 中学校の学習内容を踏まえた地層の堆積の自作教具を用いた授業実践 4 研究の実際 (1) 地層の学習の系統性【仮説1・2に関する研究】 学習指導要領を基に,小学校,中学校,高等学校における地層の学習に関する系統性を明確にすることは,中学校,高等学校への見通しをもった指導を進め,より確かな科学的概念の定着を図る上で重要であると考える。そこで単元の系統性を図1に,その学習内容を表1にまとめる。 図1 小・中・高等学校における地層の学習の系統性 表1 地層の学習の学習活動について
小学校で学習する地層の広がりやでき方の学習は,中学校の地層のでき方の学習へとつながり,高等学校でより発展的な内容へとつながっている。そこで,今回実践した6年の地層の学習は,5年の「流れる水のはたらき」の学習を基本としながら,中学校で学習する「河川から流されてきた土砂がどのように地層になっていくのか」の学習へとつながっていることを意識する必要がある。 (2) 空き瓶を使った堆積実験での授業実践【仮説1に関する研究】 ア 地層の堆積の仕方に対する子どもの概念把握 本校6年生44人に,図2の問題を解かせ,子どもの地層の堆積に対する実態を把握した。その結果を表2に示す。 大根占小の近くには,「カワゴロモ」の自生している神ノ川や根占の雄川などの2級河川が流れ,子どもたちは錦江湾に流れ込む様子をしばしば見ていると思われるが,河口付近の土砂の粒の大きさには約半数の子どもが気付いていない。また,海底での堆積の仕方も,半数以上の子どもが理解していない。 イ 空き瓶を使った堆積実験での授業の実際 本校6年1組22人に対して,以下のような授業を実践した。
ウ 考察 地層の堆積の仕方に対する実態把握の結果を表3に示す。 表3 空き瓶を使った堆積実験前後の実態把握の結果
河口付近に堆積するものの粒の大きさについては,授業の前後で変化が見られなかった。これは,「河口付近での地層の堆積」と見ているのではなく,5年「流れる水のはたらき」での学習の「河口付近には粒の小さな角の取れた石がたまる」という内容から考えているのではないかと思われる。また,海底へ向けての地層の堆積の仕方については,空き瓶を使った堆積実験を行うことで,「海底の深い方にれきが堆積する」といった誤概念をもつ子どもが9%から64%に大きく増えた。 これは,空き瓶を使った堆積実験を行うことで,「重いれきが下に沈む」という意識だけが強く残り,中学校で学習する「河川から流れてきた土砂が海底で堆積すること」を学習する際の,「海底の深い方へ重いれきが沈んでいく」という学習内容への誤概念につながっていると考えられる。つまり,空き瓶を使った堆積実験だけでは,教師のねらいとする概念形成はなされないと考えることができる。 (3) 中学校の学習内容をふまえた地層堆積の自作教具の開発【仮説2に関する研究】 ア 教科書で紹介されている実験の課題 本校で使用している教科書では,雨どいと水槽を使った地層の堆積の実験と,より簡易な実験 として空き瓶を使った実験が紹介されている。 雨どいと水槽を使った地層の堆積の実験の課題を表4に示す。 表4 雨どいと水槽を使った地層の堆積の実験の課題
イ 自作教具の開発の視点 地層の堆積に対する誤概念を防ぐために次の図3のような教具を開発した。また,教具開発の視点を表5に示す。 図3 自作の堆積実験教具 また,海底へ向けての地層の堆積の仕方については,空き瓶を使った堆積実験を行うことで,「海底の深い方にれきが堆積する」といった誤概念をもつ子どもが9%から64%に大きく増えてしまった。 これは,空き瓶を使った堆積実験を行うことで,「重いれきが下に沈む」という意識だけが強く残り,中学校で学習する「河川から流れてきた土砂が海底で堆積すること」を学習する際の,「海底の深い方へ重いれきが沈んでいく」という学習内容への誤概念につながっていると考えられる。つまり,空き瓶を使った堆積実験だけでは,教師のねらいとする概念形成はなされないと考えることができる。 表5 教具開発の視点
(4) 中学校の学習内容をふまえた地層堆積の自作教具を用いた授業実践【仮説2に関する研究】 ア 地層堆積の自作教具を用いた授業の実際 本校6年2組22人に対して,地層堆積の自作教具を用い,以下のような授業を実践した。
イ 考察 実験後の地層の堆積に対する概念の変化の結果を表6に示す。
堆積の自作教具を使った堆積実験では,「海底の深い方に重いれきが堆積する」といった誤概念をもつ子どもは一人もいなかった。また,「河口付近には粒の大きなものが堆積する」と理解している子どもは52%から76%へ増え,「河口から順に,れき・砂・泥と堆積する」と理解できている子どもは39%から50%へと増えた。その他となっている子どもが50%いるが,これは,「れき・砂・泥」という用語に対する理解が不十分であったのではないかと考えられる。 5 成果と課題
○ 空き瓶を使った実験だけを行うことは,重さの重いれきが海底の下(深い所)に堆積するという誤概念を子どもたちにもたせやすいことが分かった。
○ 地層の堆積の自作教具を用いたことで,小さな泥が遠くまで流され,粒の大きい砂が手前に堆積するという概念を押さえることができた。 ○ 地層の堆積の自作教具を用いたことで,中学校での地層の学習へとつながる概念をもたせることができた。 ○ 中学校の学習内容を把握することで,より効果的な地層堆積の自作教具を開発することができた。 ● れき・砂・泥の言葉と粒の大きさの関係をしっかり把握させないまま,実験を行っていた。確実に押さえてから実験を行うことが,より確実な理解につながる。 ● 堆積実験にれきも加えて実験を行うべきだった。れき・砂・泥の3つの層を作ることでより中学校の学習へとつなげることができると考える。れきを加えた堆積実験を行う際は,水の深さをより深くした教材を開発する必要がある。沈降時間に差をつけるためには,本研究で使用した教具では深さが足りない。 錦江町立大根占小学校 教諭 寺田 繁樹 |