「水に溶ける」とは 溶けるとは ・ 溶媒の中で,溶媒の働きにより溶質が極めて小さな粒子にまで分離され,拡散していく。 ・ その結果,溶媒の中の溶質の存在は均一化する。 ・ 光が通過できるようになり,着色しても透明になる。 化学的には,10の7乗分の1cmの大きさまで小さくなること,簡単にはセロハン膜を(先ほどの大きさの穴があいている)通過できる大きさまでなることを溶けるという。 したがって,科学者は,石けんは溶けるとは言わない。 牛乳も同じであるが,白濁するのは,光を分散させる(乱反射)ほどの大きさの塊になっているからである。 1 水に溶けるとは 溶けるということを広辞苑で拾うと, 「と・ける【溶ける・融ける・熔ける・鎔ける】とあり,融解する。固体・固形物が液状になる。液体に他の物質がまざって均一な液体になる。」 と出てくる。科学の世界では,単なる物質の混ざりを溶けるとは言わない。それは混合である。 水に食塩が溶けるというのはどういうことか。食塩は,ナトリウムイオン(●)と塩化物イオン(▲)が図のようにイオン結合で結び付いている。 ▲●▲●▲● ●▲●▲●▲ ▲●▲●▲● ●▲●▲●▲ その食塩が水の中に落ちるとどうなるか。水分子はH20で表され,酸素原子側に電子が引き寄せられた折れ線型の構造をもつため,分子全体として電荷のかたよりが生じる(極性という)。このとき,酸素原子はやや負の電荷を帯び,水素原子はやや正の電荷を帯びているため,イオン結合には及ばないが類似している。そこに,イオン結合で結ばれた食塩が来ると,ナトリウムイオンと塩化物イオンに水分子の酸素原子と水素原子がそれぞれ引き寄せられ結合(水和)し,イオン結合がはずされる。 ちなみに計算をすると面白いのでやってみよう。 100gの水には約27gの食塩が溶ける。100gの水は,100÷18で5.56モルとなる。また,食塩の27gは,27÷58.5で0.46モルとなる。したがって,5.56モルの水分子で0.46モルの食塩を溶かしていることになる。これは,5.56÷0.46=12.1であり,水分子約12個で食塩のイオン結合を1個はずすことができたということになる。 水に食塩を溶かすということはこういうことであり,水分子の極性と,食塩のイオン結合のお互いの引き合いで生まれることになり,当然,引き合いの結果,平衡状態ができることとなる。これが均一性を生み出す原因である。 また,溶けた食塩はイオンとして原子レベルの大きさで存在する。そのために,目に見えず,透明となるのである。 なお,このイオン結合が強いと,たとえば塩化銀(AgCl)のような場合には,いくら極性をもつ水分子を集めても離すことはできない。したがって,水には溶けないということになり,溶かす物によって溶ける量が異なる訳がここに存在する。 また,物質の結合は,熱による三態変化(固体−液体−気体)を考えるとお分かりのように,温度が高くなるとはずれやすくなる。したがって,通常は,水の温度を上げると溶解度は増す。 したがって「溶けるとは,水の力によって,物質が小さくなり,水の中に均一に存在するようになることであり,透明になる。」と言うことができる。 2 似たものは溶ける さて,水の中にメチルアルコールを入れるとどうか。アルコールは,極性をもたない炭化水素基と極性をもつOH基(ヒドロキシル基)からなる。OH基の部分を水分子が取り囲む(水和)ことにより,メチルアルコールは水と混ざり合い,溶けるという現象を引き起こす。したがって,この場合には,溶解度というような限度がない。しかし,極性をもたない炭化水素基の部分が大きくなると分子全体として極性の働きが弱まるので溶けにくくなる。 3 洗剤が油を溶かすのは 洗剤は,基本的には油に付きやすい部分(親油性)と水に付きやすい部分(親水性)のある物でできている。 水の中に洗剤が入ると,油に付きやすい部分が油の回りに集まっていく。その結果,その外回りにある親水性の部分だけが水の中にできてくることになり,水の中に固まり(球)となって浮き出す。 こうやって,水の中に,油を取り囲んだ洗剤の分子の集合体ができていく。 なお,こういった固まりができると分子の大きさが大きくなり,水が光の乱反射によって白く濁るということが起きるのである。 |